
サイバー攻撃被害が起きたら:製造業経営者が知るべき「隠れたコスト」の実態
「サイバー攻撃なんて大手企業の話でしょう。」
このような認識をお持ちの製造業経営者の方も少なくありません。
しかし近年、製造業を狙ったサイバー攻撃が急増しており、その被害は企業規模を問わず深刻な経済損失をもたらしています。
実際の被害事例を見ると、製造業特有の事業構造により、一度の攻撃で数千万円から億単位の損失が発生することも決して珍しくありません。
本記事では、サイバー攻撃による具体的な被害額と、なぜこれほど高額になるのかを詳しく解説します。
これらの現実を知ることで、セキュリティ対策が「企業を守る重要な投資」であることをご理解いただけるはずです。
この記事の目次[非表示]
サイバー攻撃による被害の全体像
製造業が直面する深刻な現実
製造業におけるサイバー攻撃の被害は、単純な「データが盗まれた」という問題だけでは終わりません。
製造現場の特性上、以下のような複層的な被害が発生します:
生産活動への直接的影響
- 製造システムの停止による生産計画の大幅な遅延
- 品質管理システムの麻痺による製品品質への不安
- 在庫管理システムの障害による納期管理の混乱
取引関係への深刻な影響
- 顧客への納期遅延による信頼失墜
- 取引先からの契約見直しや取引停止
- 新規受注の減少や価格交渉力の低下
企業価値そのものへの打撃
- 技術情報や製造ノウハウの流出による競争優位性の喪失
- 企業ブランドの毀損による市場価値の下落
- 金融機関からの評価低下による資金調達への影響
被害規模を左右する要因
サイバー攻撃による経済損失の規模は、以下の要因によって大きく変動します:
攻撃の種類と規模
- ランサムウェア:データ暗号化による業務停止
- 情報漏洩:顧客情報や技術データの外部流出
- システム破壊:製造設備やデータベースの物理的損傷
企業の対応能力
- 初期対応の迅速性と適切性
- 復旧計画の事前準備状況
- 専門家との連携体制の有無
業界特性と取引構造
- サプライチェーンでの位置づけ
- 扱っている情報の機密性
- 顧客企業のセキュリティ要求レベル
実際のサイバー攻撃被害額の実態
攻撃種別による平均被害額
日本ネットワークセキュリティ協会(JNSA)が2024年7月に公開した報告書によると、サイバー攻撃による平均被害額は以下のような規模に達しています:
・ランサムウェア感染:約2,400万円前後
・エモテット感染:約1,000万円前後
・ウェブサイトからの情報漏洩(クレジットカードおよび個人情報を含む):約3,800万円前後
・ウェブサイトからの情報漏洩(個人情報のみ):約3,000万円前後
参考:JNSA「サイバー攻撃を受けるとお金がかかる~インシデント損害額調査レポートから考えるサイバー攻撃の被害額~」
これらの平均被害額は、インシデント発生時の事故対応に関する直接的な費用をまとめたものであり、被害組織の内部人件費や事業停止による逸失利益は含まれていません。
そのため、実際の金銭的な損失は、これらの平均額よりもさらに高額になる可能性が高いと認識しておく必要があります。
直接的な費用負担:目に見える損失
緊急対応にかかる費用
サイバー攻撃を受けた場合、まず発生するのが緊急対応費用です。これらは攻撃発覚から初期対応完了まで、通常数週間から数ヶ月にわたって発生します:
専門機関への調査委託費用
システムの被害状況を調査するフォレンジック調査は、中小企業でも300~ 500万円程度が必要です。攻撃の手口が高度であったり、複数のシステムが関与している場合は、この費用がさらに高額になることもあります。
法律・広報の専門家費用
情報漏洩が発生した場合、法的対応と適切な情報開示が不可欠です。弁護士への相談・依頼や、広報対応を専門会社に委託する場合、継続的な専門家費用が発生します。
顧客・取引先対応費用
被害状況の説明と謝罪のための説明会開催、専用コールセンターの設置、お詫びの品の配送などが必要です。
中小企業であっても想定以上の対応費用が発生する可能性があります。
システム復旧・再構築費用
ハードウェアとソフトウェアの再構築
感染したシステムは完全に入れ替える必要があることが多く、サーバーやPC、ネットワーク機器の交換、生産管理システムや品質管理システムの再構築には相当な費用がかかります。
データ復旧と再作成
バックアップからのデータ復元作業、失われたデータの再作成、システムの動作確認などに、専門業者への委託費用が必要です。
セキュリティ強化対策
再発防止のためのセキュリティシステム導入、ネットワークの再設計、従業員教育などの費用が必要になります。
間接的な損失:見えにくい深刻なコスト
事業機会の逸失による損失
生産停止による直接的な売上減少
製造業において最も深刻なのが、生産ラインの停止による売上機会の損失です。システム復旧まで数週間から数ヶ月を要する場合、その期間の売上がすべて失われます。
単純な計算例として、月商1億円の中小製造業が3ヶ月間の生産停止を余儀なくされた場合、3億円の売上機会を失うことになります。
さらに、この期間中も人件費や設備維持費などの固定費は継続して発生するため、実質的な損失はより大きくなります。
取引関係の悪化による長期的影響
一度失った顧客の信頼を回復するには長い時間がかかります。新規受注の減少、既存契約の条件見直し、価格交渉での不利な立場など、数年にわたって事業に影響を与える可能性があります。
代替生産手段の確保コスト
納期を守るために外部への生産委託や緊急的な設備調達が必要になる場合、通常の生産コストの数倍の費用がかかることもあります。
人的リソースの集中投入
経営陣と従業員の対応工数
サイバー攻撃への対応には、経営陣から現場まで多くの人員が動員されます。
通常業務を停止しての対応が必要になるため、その期間の生産性低下は甚大です。
長期間にわたる対応により従業員のストレス増加、離職率の上昇、新規採用の困難など、人材面での損失も看過できません。
法的責任と賠償費用
顧客・取引先への損害賠償
個人情報漏洩に伴う賠償
顧客や従業員の個人情報が漏洩した場合、一人当たり数万円から数十万円の慰謝料支払いが必要になることがあります。クレジットカード情報が含まれる場合は、カード再発行費用やモニタリングサービス費用も負担する必要があります。
取引先への事業損害賠償
自社のセキュリティ不備が原因で取引先に損害を与えた場合、その損害賠償責任が発生します。大手企業との取引では、数億円規模の賠償請求に発展することもありえます。
技術情報流出による損害
製造技術や設計図面などの機密情報が流出した場合、その開発費用や競争優位性の損失に対する損害算定は数千万円から数億円規模になることがあります。
コンプライアンス違反への対応
法的手続きと罰則
個人情報保護法違反による罰金、業界団体からの処分、行政機関への報告と改善計画の提出など、法的対応だけでも数百万円の費用が発生します。
監査と認証への対応
信頼回復のための第三者監査、セキュリティ認証の取得、定期的な監査対応など、継続的な費用負担が必要になります。
長期的な信用失墜コスト
ブランド価値の毀損
市場での評価低下
一度のセキュリティ事故により、それまで築き上げてきた企業の信頼とブランド価値が大きく毀損されます。新規顧客の獲得が困難になり、既存顧客からの受注単価も下がる可能性があります。
競合他社への市場シェア流出
顧客の信頼を失うことで、競合他社に市場シェアを奪われるリスクがあります。一度失ったシェアを回復するには、通常の何倍ものマーケティング投資が必要になります。
金融・保険への影響
資金調達条件の悪化
セキュリティ事故の履歴は企業の信用情報に長期間残り、銀行融資の金利上昇や保証条件の厳格化につながります。
保険料の大幅増加
サイバー保険はもちろん、一般的な企業保険の保険料も大幅に上昇し、場合によっては保険加入自体を断られることもあります。
セキュリティ対策の経済合理性
予防投資の考え方
サイバー攻撃による被害額の深刻さを理解した上で、重要なのは適切なセキュリティ対策への投資を「コスト」ではなく「リスク回避のための必要投資」として捉えることです。
中小製造業における一般的なセキュリティ対策費用
- 基本的なセキュリティシステムの導入・運用
- 従業員への定期的なセキュリティ教育
- 専門家によるセキュリティ診断・サポート
- バックアップシステムの構築・運用
これらを包括的に実施する場合、年間数百万円程度の投資が必要になりますが、一度のサイバー攻撃による被害額と比較すれば、その経済合理性は明白です。
なお、製造業に特化したセキュリティソリューションについて詳しく知りたい方は、下記をご覧ください。
実際の導入事例と具体的な効果について解説しています。
継続的な対策の重要性
セキュリティ対策は一度導入すれば終わりではありません。
新たな脅威に対応するため、継続的なアップデートと改善が必要です。
しかし、この継続的な投資を行うことで、事業継続リスクを大幅に軽減し、取引先からの信頼も維持できます。
まとめ :今すぐ始めるべき「守り」への投資
サイバー攻撃による経済損失は、多くの経営者が想像する以上に深刻で広範囲にわたります。
特に製造業においては:
- 直接的な被害だけで数千万円規模の損失が一般的
- 事業継続への影響を含めると億単位の経済的打撃も珍しくない
- 復旧には最低でも数ヶ月の長期間を要する
- 失った信頼の回復には数年を要することもある
これらの現実を踏まえると、適切なセキュリティ対策への投資は「コスト」ではなく、企業の持続的成長を支える「必要不可欠な経営投資」であることは疑いの余地がありません。
「まさか自社が狙われることはないだろう」という楽観的な考え方は、もはや通用しません。
サイバー攻撃は業界や企業規模を問わず、すべての企業にとって現実的で切迫した脅威となっています。
重要なのは、これらの深刻な被害を受ける前に、適切な予防策を講じることです。
年間数百万円のセキュリティ投資で、数千万円から億単位の被害を防げるのであれば、その経済合理性は明白です。
企業の未来を守るために、今こそ「転ばぬ先の杖」としてのセキュリティ投資を真剣に検討する時です。
次回は、これらの深刻な被害を防ぐために、中小製造業がどのような具体的なセキュリティ対策を導入すべきか、実際の解決策について詳しく解説いたします。
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