
2026年 労働安全衛生法改正|経営者が今押さえるべきポイントと戦略的対応
2025年5月14日に公布された「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律」が、2026年1月から段階的に施行されました。
【出典】厚生労働省「労働安全衛生法及び作業環境測定法改正の主なポイントについて」
特に製造業・建設業・化学・エネルギー関連企業では、「改正内容が多岐にわたり全体像を把握しにくい」「安全衛生業務が一部の担当者に依存している」といった課題が顕在化しやすい傾向があります。
本記事では、複雑なスケジュールを可視化しているため時系列での把握がしやすいこと、また経営者や現場管理者が把握すべき改正のポイントと、法令を戦略的な設備投資・組織体制整備につなげる視点を解説します。
この記事の目次[非表示]
- ・改正法の施行スケジュール
- ・1. 個人事業者等の安全衛生対策の推進
- ・注文者等の配慮規定の明確化(令和7年5月14日施行)
- ・混在作業場所における措置義務の拡大(令和8年4月1日施行)
- ・個人事業者等自身への義務付け(令和9年4月1日施行)
- ・作業場所管理事業者への連絡調整措置の義務付け(令和9年4月1日施行)
- ・業務上災害報告制度の創設(令和9年1月1日施行)
- ・【経営への影響】
- ・2. 職場のメンタルヘルス対策の推進
- ・3. 化学物質による健康障害防止対策等の推進
- ・4. 機械等による労働災害防止の促進等
- ・5. 高年齢労働者の労働災害防止・治療と仕事の両立支援
- ・法改正を「攻めの投資」に変える経営戦略
- ・まとめ:段階的施行に合わせた計画的な対応を
改正法の施行スケジュール
今回の改正は段階的に施行されます。主な施行日は以下のとおりです。
施行日 | 主な改正内容 | |
|---|---|---|
令和7年5月14日(公布日) | 注文者等の配慮規定の明確化 | |
令和8年1月1日 | 特定自主検査・技能講習の不正防止対策強化 | |
令和8年4月1日 | 混在作業場所の措置義務拡大、高年齢労働者対策(努力義務)、 治療と仕事の両立支援(努力義務)、営業秘密成分の代替化学名等通知、 特定機械等の検査制度見直し | |
令和8年10月1日 | 個人ばく露測定の精度担保(作業環境測定士等による実施義務化) | |
令和9年1月1日 | 個人事業者等の業務上災害報告制度の創設 | |
令和9年4月1日 | 個人事業者等自身への義務付け(構造規格、定期自主検査、安全衛生教育等)、 作業場所管理事業者への連絡調整措置義務 | |
公布後3年以内 | ストレスチェックの50人未満事業場への義務化 | |
公布後5年以内 | SDS通知義務違反への罰則新設、通知事項変更時の再通知義務化 |
1. 個人事業者等の安全衛生対策の推進
今回の改正で最も大きな変更点は、個人事業者等(一人親方・フリーランス等)を労働安全衛生法による保護の対象および義務の主体として明確に位置づけたことです。
注文者等の配慮規定の明確化(令和7年5月14日施行)
これまで建設工事の注文者に適用されていた、施工方法・工期等について安全で衛生的な作業の遂行を損なう条件を付さないよう配慮する規定が、建設工事以外の注文者にも広く適用されることが明確化されました。
混在作業場所における措置義務の拡大(令和8年4月1日施行)
(特定)元方事業者が混在作業場所において講ずべき指導や連絡調整等の措置について、その対象が「労働者」から「作業従事者(個人事業者等を含む)」に拡大されます。
また、機械等や建築物を他の事業者に貸与する者が講ずべき災害防止措置についても、個人事業者等に貸与する場合にも当該措置を講ずることとされました。
個人事業者等自身への義務付け(令和9年4月1日施行)
個人事業者等自身に対して、労働者と同一の場所において作業を行う場合に、以下の事項が義務付けられます。
● 構造規格や安全装置を具備しない機械などの使用の禁止 ● 特定の機械などに対する定期自主検査の実施 ● 危険・有害な業務に就く際の安全衛生教育の受講 |
作業場所管理事業者への連絡調整措置の義務付け(令和9年4月1日施行)
作業場所管理事業者(仕事を自ら行う事業者であって、当該仕事を行う場所を管理するもの)に対して、その管理する場所において、自社または請負人の作業従事者のいずれかが危険・有害な業務を行う場合に、災害防止の観点から作業間の連絡調整等の必要な措置を講ずることが義務付けられます。
業務上災害報告制度の創設(令和9年1月1日施行)
個人事業者等の業務上災害が発生した場合には、災害発生状況などについて厚生労働省に報告させることができることとなりました。報告の仕組みの詳細は今後、関連する法令等により示されます。
【経営への影響】
建設業や製造業で外注先として個人事業者を活用している企業は、これまで以上に協力会社・外注先の安全管理体制を把握し、連携を強化する必要があります。契約書や作業指示の見直し、安全教育の共同実施なども検討が必要です。
2. 職場のメンタルヘルス対策の推進
50人未満事業場へのストレスチェック義務化(公布後3年以内施行)
現在「当分の間努力義務」とされている常用労働者数50人未満の事業場においても、ストレスチェックおよび高ストレス者への面接指導の実施が義務化されます。
国においても、50人未満の事業場に即したストレスチェックの実施体制・実施手法についてのマニュアルの作成や、医師による高ストレス者への面接指導の受け皿となる地域産業保健センター(地さんぽ)の体制拡充などの支援が進められます。
3. 化学物質による健康障害防止対策等の推進
化学物質の「自律的管理」への移行(約2,300物質への拡大、濃度基準値の遵守義務化など)は、2022年の安衛則等改正に基づくものであり、2024年4月に既に完全施行されています。
今回の法改正では、この自律的管理をさらに実効性のあるものとするための追加措置が講じられました。
SDS通知義務違反への罰則新設(公布後5年以内施行)
化学物質の譲渡・提供時における危険性及び有害性情報の通知(SDS:安全データシートの交付)の履行確保のため、通知義務違反に対する罰則が新たに設けられます。また、通知事項を変更した場合の再通知も義務化されます。
営業秘密成分の代替化学名等での通知(令和8年4月1日施行)
SDSについて、化学物質の成分名に企業の営業秘密情報が含まれる場合、有害性が相対的に低い化学物質に限り、成分名について代替化学名等での通知が認められます。
なお、代替化学名等での通知を行った事業者は、実際の成分名等の情報の記録・保存が義務付けられ、医師が診断・治療のために成分名の開示を求めた場合は直ちに開示する義務があります。
個人ばく露測定の精度担保(令和8年10月1日施行)
危険有害な化学物質を取り扱う作業場において、労働者が化学物質にばく露している程度を把握するために行う個人ばく露測定について、その測定精度を担保するため、個人ばく露測定を作業環境測定の一部として位置づけ、有資格者(必要な講習を受講した作業環境測定士など)が作業環境測定基準に従って行うことが義務化されます。
【経営への影響】
既に施行されている自律的管理への対応として、濃度基準値の遵守、リスクアセスメントの実施、記録の保存(原則3年、がん原性物質は30年)は引き続き必須です。今回の改正により、測定の精度担保やSDS交付の履行確保がさらに強化されるため、サプライチェーン全体での化学物質管理体制の見直しが求められます。
4. 機械等による労働災害防止の促進等
特定機械等の製造許可及び製造時等検査制度の見直し(令和8年4月1日施行)
危険な作業を必要とする特定機械等(ボイラー、クレーンなど)に対して義務付けられている製造許可や製造時等検査などの制度について、以下の見直しが行われます。
製造許可申請の審査のうち、特定機械等の設計が構造規格に適合しているかの審査について、登録を受けた民間機関が行うことが可能に
製造時等検査の対象となる機械のうち、移動式クレーン及びゴンドラについても登録を受けた民間機関が検査を行うことが可能になりました。
特定自主検査及び技能講習の不正防止対策の強化(令和8年1月1日施行)
フォークリフトなどの一定の機械に対して義務付けられている特定自主検査について、基準を定め、登録検査業者はこの基準に従って検査を行わなければならないこととされました。
また、フォークリフトの運転業務などに従事するために必要な技能講習について、不正に技能講習修了証やこれと紛らわしい書面の交付を禁止するとともに、不正を行った場合の回収命令、欠格期間の延長が規定されました。
5. 高年齢労働者の労働災害防止・治療と仕事の両立支援
高年齢労働者の労働災害防止の推進(努力義務)(令和8年4月1日施行)
高年齢労働者の労働災害の防止を図るため、高年齢労働者の特性に配慮した作業環境の改善、作業管理などの必要な措置を講ずることが事業者の努力義務となりました。
治療と仕事の両立支援の推進(努力義務)(令和8年4月1日施行)
職場における治療と仕事の両立を促進するために必要な措置を講じることが事業者の努力義務となりました。こちらも国において指針が定められます。
法改正を「攻めの投資」に変える経営戦略
今回の法改正への対応を、単なるコンプライアンスコストではなく、企業価値を高める戦略的投資として捉えることが重要です。
設備投資による本質的な安全確保
化学物質管理において、厚生労働省の指針では対策の優先順位として、防毒マスクなどの個人用保護具の使用は「最終手段」と位置づけられています。まずは「設備(ハードウェア)」で根本的な解決を図ることが大原則です。
● 化学物質の変更:より安全なものへ ● 工学的対策:局所排気装置、プッシュプル型換気装置の設置など ● 管理的対策:作業時間の見直しなど ● 個人用保護具の使用:最終手段 |
局所排気装置やプッシュプル型換気装置への投資は、法令遵守だけでなく、作業者の疲労軽減による生産性向上、製品品質の安定、エネルギー効率の改善など、複合的なメリットをもたらします。
デジタル化(DX)による管理体制の高度化
化学物質の自律的管理では、リスクアセスメントの結果や実施した対策の記録について、原則3年間、がん原性物質については30年間の保存が義務付けられています。この長期にわたる記録管理を紙ベースで行うことは、紛失・劣化リスクの観点から現実的ではありません。
記録管理のデジタル化により、以下のメリットが得られます。
● 測定器との連携による日々の濃度データの自動収集・保存 ● 基準値接近時の管理者へのアラート通知 ● 監査時の過去記録の即時抽出・レポート化 ● 現場管理者の事務負担削減 |
「選ばれる職場」へのブランディング
深刻な人手不足に悩む製造業界において、作業環境の良し悪しは採用に直結します。最新の換気システムを導入し、数値を公開している工場と、従来のまま改善が見られない工場。優秀な若手人材がどちらを選ぶかは明白です。法改正を機に行う設備投資は、「次世代の人材を惹きつけるブランディング」としての価値を持ちます。
まとめ:段階的施行に合わせた計画的な対応を
今回の労働安全衛生法改正は、個人事業者等への保護拡大、メンタルヘルス対策の強化、化学物質管理の履行確保など、多岐にわたる内容となっています。
2026年1月から2029年にかけて段階的に施行されるため、施行スケジュールを把握した上で、計画的な対応が求められます。
特に以下の点については、早期に検討を開始することをお勧めします。
● 個人事業者・協力会社との安全管理連携体制の見直し ● 50人未満事業場におけるストレスチェック実施体制の整備 ● 化学物質管理のSDS交付・記録管理体制の再点検 ● 高年齢労働者に配慮した作業環境改善の検討 ● デジタル化による記録管理体制の構築 |
法改正への対応を「守り」ではなく「攻め」の投資として捉え、安全で働きやすい職場づくりを通じて、企業の持続的な成長につなげていただければ幸いです。
※本記事は2025年5月14日公布の改正法に基づいて作成しています。政省令等の詳細については、今後厚生労働省から示される情報をご確認ください。

