ものづくり補助金の採用事例とポイント

ものづくり補助金の採択事例とポイント|2025年の傾向を中小企業診断士が解説

ものづくり補助金は、中小製造業における設備投資や生産性向上の取り組みを後押しする代表的な制度です。しかし、「どのような企業が採択されているのか」「自社も活用できるのか」といった点は、実際の採択事例を見てみないとイメージしにくいのではないでしょうか。

本記事では、これまでに数百社の製造業の補助金申請を支援してきた中小企業診断士の筆者が、最新のものづくり補助金の採択事例を徹底分析しました。

実際に採択された企業が「どのような設備導入」を行い、「どのようなストーリー」が評価されたのか。現場での支援経験に基づき、採択事例の共通点や評価されるポイントを解説します。事例から勝ちパターンを知ることで、投資判断や採択率の高い計画づくりにお役立ていただけるはずです。

この記事の目次[非表示]

  1. ものづくり補助金とは
  2. 採択事例から学ぶ"採択されるストーリー"
  3. 2025年の採択傾向と業種別割合|採択率の変化は?
  4. ものづくり補助金で採択されるためのポイント

ものづくり補助金とは

ものづくり補助金の目的と概要

ものづくり補助金は、中小企業等の生産性向上につながる革新的な新製品・新サービス開発を後押しするために、設備・システム投資を支援する制度です。

特に製造業においては、工作機械や検査装置、CAD/CAMなどの導入に使用されています。

対象となる設備

ものづくり補助金で補助対象となる設備は、企業がこれまで実現できなかった技術や製品の開発に挑戦するために必要となる機械装置やソフトウェアです。

難削材の高精度加工、新素材を用いた部品開発など、「従来の生産能力では対応できなかった領域」に踏み込むための設備投資が対象になります。

補助金額

ものづくり補助金の補助上限額は、企業の従業員規模によって段階的に設定されています。
補助率は、企業規模によって「1/2」または「2/3」となり、特に小規模事業者の場合は負担を抑えた設備導入が可能です。


【補助上限】

従業員数

補助上限額

1~5人

750万円

6~20人

1,000万円

21~50人

1,500万円

51人以上

2,500万円


【補助率】

  • 中小企業:1/2
  • 小規模事業者・再生事業者:2/3


※実際の補助金額は賃上げの実施具合、申請する枠などによって変わります。詳しくは公式ホームページをご確認ください。

申請できる企業、申請するための条件

ものづくり補助金を申請できるのは、中小企業基本法に基づく中小企業・小規模事業者です。
製造業の場合は「資本金3億円以下」または「従業員300人以下」が目安となり、一般的な中小製造業であれば多くの企業が対象に含まれます。

申請にあたって特に重要なのは、賃上げに関する要件を満たすことです。
給与支給総額の増加や最低賃金の引き上げが求められ、これを達成できない場合は補助金返還の対象となるため、申請前に慎重な検討が必要です。

上記の2点を押さえておけば、基本的な適格性は確認できます。
その他にも細かな要件や注意事項がありますので、具体的な状況に応じて個別に相談しながら進めることをおすすめします。

採択事例から学ぶ"採択されるストーリー"

ものづくり補助金の制度概要を押さえたところで、次に「実際どのような事業計画が採択されているのか」を紹介します。

実際の採択事例を見てみると、評価されやすい計画には共通した流れがあり、それを踏まえて申請することが、採択への近道となります。

事例①  【金属製品製造業】
複合NC旋盤の導入による洋上風力・防衛関連領域への挑戦

項目

内容

導入設備

オークマ製 複合NC旋盤 LB4000EX Ⅱ

補助金額

約1,500万円

従業員数

21人~50人

業種

金属製品製造業


最初にご紹介する事例は、オークマ製の複合NC旋盤「LB4000EXⅡ」を導入し、成長が見込まれる洋上風力・防衛関連等の分野へ新規参入した企業のケースです。従来は複数設備で対応していた旋削・穴あけ・ねじ切りといった加工を、1台に集約できる体制を構築し、高精度かつ再現性の高い製造プロセスを実現することを目指した取組でした。

この企業は、「1000分の1mm単位の高精度加工技術」「ISO9001に基づく品質保証力」といった強みを持ちながらも、工程集約が進んでおらず、生産性に課題があること、既存顧客に依存する傾向が強く、新市場への対応力が十分ではないことが弱みとなっていました。

一方で外部環境を見ると、洋上風力などのインフラや防衛関連需要の拡大が続いており、これらの成長分野から部品供給のニーズが高まっている状況がありました。

そこで事業計画では、「LB4000EXⅡ」を導入することで工程集約が可能となり、従来の設備では加工が難しかった洋上風力リフター装置部品や防衛関連部品の製造が実現できる点を明確に示しました。設備の高剛性構造・熱変位制御・ワンチャック加工による精度維持といった技術的優位性を示しながら、自社の強みである熟練技術や品質保証体制との相乗効果によって、成長分野での競争力を獲得できることを丁寧に説明しています。

この事例は、「いまの姿」と「なりたい姿」を明らかにした上で、そのギャップの原因が「設備面の不足」にあることを明確に説明できた点が採択につながった要因であるといえます。

また、洋上風力や防衛関連は技術革新が活発な領域であり、このような領域で今まで難しかった部品の加工ができるようになるという取組は革新性の観点からも高く評価されたと考えられます。

今までできなかったことが設備面の課題解決によってできるようになる、というストーリーはものづくり補助金の典型的な勝ちパターンであるといえます。

事例②  【樹脂製品製造業】
5軸MC、CNC3次元測定機による半導体製造装置領域への展開

項目

内容

導入設備

ブラザー工業製 5軸マシニングセンタ U500XD2
東京精密製 CNC3次元測定機 XYZAX AXCEL RDS
OPEN MIND製 3次元CAD/CAM hyper MILL

補助金額

約2,000万円

従業員数

51人以上

業種

樹脂製品製造業


次にご紹介する事例は、ブラザー工業製5軸マシニングセンタ「U500XD2」、東京精密製CNC3次元測定機「XYZAX AXCEL RDS」、OPEN MIND製3次元CAD/CAM「hyper MILL」を組み合わせて導入した事例です。ものづくり補助金では、補助金で導入する設備の数に特に制限はないため、この事例のように複数の設備を組み合わせて導入することも可能です。

この事例では、今までは断っていた複雑な形状の部品でも加工・検査できる体制を構築し、成長が著しい半導体製造装置領域へ参入するというストーリーをわかりやすく伝え、採択されることに成功しました。

事業計画では、まず自社の弱みとして、3軸マシニングセンタしか保有しておらず、複雑な曲面の加工・検査が難しいことや複数の面の加工が必要な部品の加工・検査に時間がかかってしまうことを挙げました。一方で、外部の機会として、半導体製造装置の市場規模が拡大しており、実際に引合いがあったことからビジネスチャンスが存在していることを説明しました。

これらの自社と市場の分析をした上で、ものづくり補助金を利用して新たに5軸マシニングセンタ、CNC3次元測定機、3次元CAD/CAMを導入できれば、設備面の課題が解決され、自社の強みである顧客とのすりあわせ力やベテラン社員の技術力を活かし、半導体製造装置の部品市場に参入できることを説明しました。

この事例でも、「今の課題」と「成長市場のチャンス」を整理したうえで、両者のギャップを埋める手段として設備投資が必要不可欠であることを明確にしています。導入する設備毎に、必要となる理由を丁寧に説明することで、複数設備の一括導入であっても、問題なく採択を目指すことができます。

半導体製造装置の部品という市場選択も革新性の観点から適切であったと考えられます。

事例③  【金型製造業】
ワイヤ放電加工機の導入によるプレス金型の精度向上

項目

内容

導入設備

ファナック製 ワイヤ放電加工機 ROBOCUT α-600ic

補助金額

約1,000万円

従業員数

5~20人

業種

金型製造業


最後にご紹介する事例はファナック製ワイヤ放電加工機「ROBOCUT α-600ic」を導入したケースです。

この事例の企業は、既にワイヤ放電加工機を導入済みでしたが、半導体製造装置や医療機器の部品用の金型製作のため、今以上の高精度で加工ができるワイヤ放電加工機が必要であるというストーリーで採択されました。

既に同じような設備を保有していたとしても、既存機と比較して精度などで明確な差別化が可能であれば、十分に採択を狙うことができます。

事業計画では、昨今、半導体製造装置や医療機器といった精密機器関連の引合いが増加している一方で、今のワイヤ放電加工機では要求されるような精度の加工ができないため、断ってしまっていることを、定量的な要求精度も記載するなどして丁寧に説明しました。

その上で、「ROBOCUT α-600ic」を導入することで、従来の設備では実現することが難しかったような±数μmレベルの加工が可能となり、顧客の要求する水準を満たせること、信頼性が高い連続無人運転が可能なため夜間の加工も可能になることなどを示しました。

この事例のポイントは、既に同じ種類の設備を保有していることを明らかにした上で、新たに導入する設備が定量的に優れていることを説明し、採択されることに成功している点です。

補助金で導入したい設備と既存機が性能的に異なることを、メーカー公表のスペックシート等を用いて客観的に示すことで、同じ種類の設備を保有していたとしても採択は可能です。精度が圧倒的に向上するという取組は革新性の観点からも高く評価されたと考えられます。

また、この事例でも、現状の加工精度と目指したい加工精度を明確化して、そのギャップの解消のために最新のワイヤ放電加工機が必要であることを明確に示しています。

自社の課題を特定し、革新的な事業に挑むストーリーが重要

今回紹介した3つの事例はいずれも自社の分析をした上で、課題を解決するためには補助金で導入したい設備が必須であるということ、導入した設備を活用して今までできなかったような加工や参入できなかった領域への参入ができるようになるというストーリーが成り立っていました。

ものづくり補助金に採択されるためには単なる設備更新ではなく、自社の課題を解決し生産性を高める取組であること、投資による狙いが補助金の目的にあった、革新的な取組であることが審査員に伝わる必要があります。

「自社がなぜ今この挑戦をするのか」「その設備投資によってどのような革新的な製品・技術が実現するのか」という"ストーリー性"が重要です。採択されている企業ほど、事業計画書の中でこの流れを明確に描いている点が共通しています。

ぜひ、事例を参考に、自社の取組を説明するストーリーがどのようになるかを考えてみてください。

2025年の採択傾向と業種別割合|採択率の変化は?

ここからは、ものづくり補助金の最新の採択傾向について整理していきます。
直近の20次締切では、全国で825社が採択されました。業種や企業規模などの詳細データは公表されていませんが、
筆者が採択事例の取組内容を分析し、業種ごとの傾向を独自に評価しました。

採択企業の業種構成


大分類

割合

製造業

48%

情報通信業

15%

サービス業(他に分類されないもの)

10%

建設業

9%

学術研究,専門・技術サービス業

6%

医療,福祉

3%

卸売業・小売業

2%

農業,林業

2%

宿泊業,飲食サービス業

2%

生活関連サービス業,娯楽業

2%

運輸業,郵便業

1%

(20次締切採択結果から、筆者作成)


採択企業の中で最も多かったのは製造業で、全体の約48%を占めました。2番目に多かった情報通信業と比べても3倍以上の割合となっており、幅広い業種が対象である一方で、ものづくり補助金が製造業の設備投資・技術開発を強く後押しする制度であることが改めて確認できる結果となりました。

製造業の採択傾向

製造業の採択結果をさらに詳しく見てみると、非常に幅広い分野の取組が採択されていることが分かります。

その中でも最も多かったのは、高度加工技術・精密部品へのシフトといった、自社の技術を一段引き上げるような事業でした。難削材や新素材への対応、ミクロンレベルの精度を追求した部品加工、新市場向けの高付加価値部品の開発など、技術的な革新性を軸にした取り組みが特に目立ちます。

実際に採択されている事業計画名

高精度・低コストな難削材部品の開発による航空分野等への参入

高精度曲げ・溶接技術確立によるレッカー車特殊部材市場への参入

半導体製造装置部品の無欠損加工技術の確立と製品化

高精度電線定尺切断技術・高精度高効率電線曲げ加工技術の確立


次に多かったのは、GX・環境対応・資源循環型の製品開発です。リサイクル素材や環境配慮型材料、脱炭素技術など、SDGsや社会的要請を背景に新素材や新工法を活用した取組が採択されています

また、DX・ロボット・AI・検査・計測といった"インテリジェント化"につながる事業も複数見られ、設計・検査・工程管理などの領域で新たなサービスや技術を生み出す取り組みが採択されています。

全体の採択率の変化

最後に、直近までの全体の採択率の変化を分析します。直近の全体の採択率は33.6%と、直近3年間、11次公募からの10回の中では3番目に低い採択率となりました。


2025年はものづくり補助金の財源となっている制度の中に別の補助金が加えられて予算が枯渇したこともあり、例年と比べると採択の難易度が高かったといえます。

ものづくり補助金で採択されるためのポイント

最後に、ものづくり補助金で採択されるためのポイントとして、審査項目とよくある不採択要因を解説します。前述のストーリー性のある構成とともに、審査項目を満たしているかどうかも意識することで採択率がぐっと高くなります。

審査員が重視する3つの視点

ものづくり補助金の審査は、公募要領で定められた細かな審査項目に基づいて評価されます。しかし、経営者や現場の担当者が申請内容を整理するうえでは、これらの複雑な基準を"3つの視点"にまとめて理解すると格段に進めやすくなります。

その3つの視点とは、

 ① 革新的で競争力のある取組になっているか
 ② 実現可能性が高いか
 ③ 政策と合致した内容になっているか

というものです。

これから詳しく説明する各視点が、自社の取組に当てはまりそうかどうか――。申請を検討している方は、まずここを意識して事業計画の方向性を固めていくと、採択される計画づくりに大きく近づきます。

① 革新的で競争力がある事業計画となっているか

3つの視点のなかで、最も重要なのがこの視点です。公募要領の審査項目には直接"革新的かどうか"という表現はありませんが、この補助金が単なる設備更新ではなく革新的な新製品・新サービス開発を後押しするものであることからも重要な観点です。

革新性を考えるうえでは、まず「新たに生み出される製品・サービスが、既存の何とどう違うのか」を明確にすることが欠かせません。精度・品質・素材・加工範囲・機能など、従来では提供できなかった価値が具体的に示されているほど、審査員はその革新の本質を理解しやすくなります。

また、誰に向けた価値なのか――つまり、顧客は誰で、その顧客にどのようなメリットを提供できるのかも重要です。革新的で競争力のある計画として評価されるためには、この「顧客価値」が明確に整理されている必要があります。

② 実現可能性が高い事業計画となっているか

革新性が高い計画であっても、それが「実行できるかどうか」が伴っていなければ採択は期待できません。ものづくり補助金では、技術面・体制面・財務面・スケジュール・費用対効果など、いわば"事業を成功させるための基本条件"が丁寧に確認されます。

特に技術面では、その取組を実現するために必要な技術力を自社が備えているか、そして競合他社と比べてどこに優位性があるのかが見られます。単に「設備を入れればできる」ではなく、既存の技術蓄積やノウハウ、過去の実績が裏付けとして重要になります。

難しく考える必要はありませんが、補助金に限らず"事業として無理のない計画であること"を丁寧に説明できれば、実現可能性の評価は大きく高まります。

③ 政策と合致した事業計画となっているか

この視点は、補助金ならではの視点といえます。

例えば、地域の産業基盤強化につながる取組や、新たな雇用の創出、地元企業との協業など、「地域経済への貢献」が見込まれる事業は評価が高まる傾向にあります。また、大学や研究機関との共同研究などの「産学連携」、カーボンニュートラルや資源循環などに関連し「低炭素技術の活用」や「環境負荷の低減」などは評価されます。

必ずしもすべてを満たす必要はありませんが、事業内容を振り返ったときに政策目標と接点が見出せる場合は、その点を積極的に示すことで、採択率が高まると期待できます。

不採択を防ぐための注意点

補助金申請では、事業内容そのものが優れていても、申請書類の不備によって不採択となるケースが少なくありません。
提出書類の形式や必要添付資料は細かく定められており、不足や記載ミスがあると、その時点で審査対象外になる可能性があります。

また、内容面での"見せ方"も軽視できません。良い計画であっても、文章が読みづらい、構成が整理されていない、図表が適切に使われていないといった理由で、本来の魅力が審査員に伝わりにくくなってしまいます。審査員は限られた時間で多数の申請書を確認するため、可読性が高く論理構成が整理された計画書の方が、内容が正しく伝わり評価されやすくなるのが実情です。

書き慣れていない場合や、客観的なチェックが必要だと感じる場合は、専門家のレビューを受けるだけでも精度は大きく向上します。 基本的なミスの防止はもちろん、伝わりやすい構成や表現への調整など、自社だけでは気づきづらい改善点を補うことができます。

補助金を活用したい方、申請手続きにお悩みの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

村上 貴弘
村上 貴弘
株式会社プランベース 取締役(中小企業診断士、行政書士) 製造業、建設業、運輸業など幅広い業種を中心に数多くの補助金申請案件を取り扱う。特に、ものづくり補助金、大規模成長投資補助金といった経済産業省の補助金の申請支援経験が豊富。

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