
【3月度 業界トピック】金属AMの実践活用と普及の課題
今月のトピックスは、製造業の未来を握る「AM(アディティブ・マニュファクチャリング:積層造形)」、
いわゆる3Dプリンター技術の社会実装が大きなテーマとなっています。
大手自動車メーカーによる金型補修での劇的なコスト削減事例から、世界に挑む若き技術者の話題、
そして日本国内での普及を阻む「品質の壁」に関する本音の議論まで、非常に密度の濃い内容が集まりました。
私たち日本の製造業が、この新しい技術をいかに自分たちの「武器」として取り込んでいくべきか、そのヒントが詰まっています。
マツダ、金属積層造形でダイキャスト型入れ子を補修
マツダが金属AM技術を駆使し、量産用金型の補修プロセスを確立したというニュースは、まさに現場主導の改善が実を結んだ好例といえます。これまで使い捨てにされることが多かったダイキャスト用の「入れ子(金型の一部を構成する部品)」に対し、DED方式(指向性エネルギー堆積法)を用いて必要最小限の肉盛りで形状を復元することに成功しました。
ここでの大きな注目ポイントは、AMを単なる「新しい造形手段」としてではなく、既存の金型寿命を延ばすための「高度なメンテナンスツール」として定義し直した点にあります。マツダは、従来のTIG溶接では避けられなかった熱影響による品質のばらつきを、AMを用いることで極限まで抑え込みました。さらに、摩耗しやすい箇所にだけ耐摩耗性の高い高機能粉末材料を積み上げることで、局所的な強化を図っています。
この取り組みの結果、シリンダーブロック用入れ子の寿命が2.2倍に延び、コストも50%削減(3万ショット換算)という具体的な成果が出ています。これは、マツダの鋳造現場が長年培ってきた「金型のデータ」と「現場の勘」を、最新のAMプロセスに見事に融合させたからこそ得られた結果です。AMを「特別な技術」から、現場のオペレーターが使いこなす「改善の選択肢」へと定着させていく姿勢は、多くの企業にとって大いに参考になるはずです。
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技能五輪国際大会「AM職種」に日本初参戦
2026年9月に上海で開催される「第48回技能五輪国際大会」にて、日本代表が初めて「付加製造(AM)」部門に参戦することが決まりました。豊田自動織機の宮堂頌也選手がその重責を担います。AM技術は、2034年には世界で約16兆円規模の市場になると予測されていますが、国内での普及は欧米や中国に比べて「様子見」が続いていたのが実情です。
ただ、現場目線で見ると、AMは単に装置を導入すれば良いというものではありません。金属AMは、熱源による溶融と凝固を繰り返すため、膨大なパラメータの調整や、後工程まで含めたトータルでの工程設計が不可欠な難易度の高い技術です。
今回の国際大会への挑戦は、そうした高度な技術を「個人のスキル」として定着させ、日本の製造業全体の底上げを図るための先陣を切る取り組みとして期待されています。
注目したいのは、若手技術者がこうした最先端領域で世界と戦うことで、AMが「検証段階」から「実務で使いこなす技能」へと変わっていくプロセスです。2028年には愛知県での自国開催も控えており、今後はAMを扱える人材の有無が企業の競争力を左右する大きな要因になっていくでしょう。次世代の基幹技術を支える人材育成の重要性が、改めて問われているといえます。
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金属3Dプリンターが普及しない理由をメーカー4社が語る
日本国内で金属AMの導入が遅れている背景について、主要メーカー4社が本音を語り合ったセミナーの内容から、業界の課題が率直に見えてきます。そこで浮かび上がったのは、「日本の製造業が誇る高い品質要求が、皮肉にもAM普及の壁になっている」という逆説的な現状でした。
海外では「AMでしか作れない新しい設計」を追求するのに対し、日本企業は「既存工法の置き換え」として品質やコストを減点方式で評価しがちです。その結果、膨大な試験データの蓄積という「検証のループ」から抜け出せなくなっているという指摘は、身に覚えのある方も多いのではないでしょうか。しかし、熟練技能者の高齢化により、これまでの「職人技」に頼ったモノづくりが限界を迎えつつある今、AMという新しい工法をいかに受け入れるかが問われています。
導入を検討する企業側としては、全ての品質を従来技術と同じ基準で測るのではなく、AMならではの価値(リードタイム短縮や一体造形による機能向上など)に目を向けるマインドセットの転換が一つの突破口になるでしょう。メーカー側も、既存の溶接技術の延長として捉えやすい「ワイヤーレーザー方式」の提案や、規格化への取り組みを進めています。失敗を恐れず、「こんなことができれば面白い」という設計者の発想を形にする手段として、まずは小さな用途から試してみることが普及への第一歩になると感じます。
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まとめ
今月のニュースを振り返ると、AM技術がようやく「理想」から「実利」を伴うフェーズへと移行しつつあることが見えてきます。マツダの事例のように、現場の切実な課題である金型コスト削減にAMを適用し、具体的な数字で成果を示す動きは、今後の国内製造業における標準的な改善手法になっていくでしょう。
一方で、日本特有の「品質への高い意識」が、イノベーションのスピードを鈍らせている側面も否定できません。しかし、これは裏を返せば、一度AMが「品質基準」をクリアし、現場のオペレーターが「使い倒す」段階に入れば、日本は世界で最も精緻にこの技術を使いこなす国になれるポテンシャルを秘めているということでもあります。
私たち製造業に携わる者にとって、大切なのは最新設備を導入すること自体ではなく、それをどう既存の強みと融合させ、お客様への価値に変えていくかという視点です。自動化・省人化や競争力強化の手段として、AMを「一つの工法」として当たり前に検討する時期が、すでに来ているといえるでしょう。
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