エンドミルの選び方マニュアル|用途・材質・形状で迷わない選定ガイド

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製造現場のために、エンドミルの基本から実践的な活用法までを詳細に紹介。種類別の特性、用途に応じた選定基準、そして工具寿命を延ばすメンテナンス手法まで、実務に役立つ情報を提供します。
製造現場の切削加工において中心的な役割を果たすエンドミル。多彩な種類があり選択に迷うことの多い工具ですが、性質や形状を把握することで最適なものを見出せます。この記事では、エンドミルの基礎から実用的な選定方法までを説明します。

この記事の目次[非表示]

  1. エンドミルと、ドリル・タップ・リーマとの違い
    1. 切削工具としての特徴とメリット
    2. ドリル、タップ、リーマとの違いを解説
  2. エンドミルの種類と用途
    1. スクエアエンドミル
    2. ボールエンドミル
    3. ラジアスエンドミル
    4. ラフィングエンドミル
    5. テーパエンドミル
  3. エンドミル選びの4つのポイント:材質・コーティング・刃数・サイズ
    1. 材質で選ぶ:ハイス vs. 超硬
    2. コーティングで選ぶ:耐摩耗性・潤滑性アップ
    3. 刃数で選ぶ:切り屑排出性と剛性のバランス
    4. サイズで選ぶ:加工精度と効率を左右する
  4. エンドミルの寿命を延ばす:再研磨・再コーティング
    1. エンドミルの寿命:摩耗のサインを見逃さない
    2. 再研磨で新品同様の切れ味に
    3. 再コーティングで性能復活
    4. 適切なメンテナンスでコスト削減
  5. まとめ

エンドミルと、ドリル・タップ・リーマとの違い

切削加工の要となるエンドミルは、フライス盤やマシニングセンタに取り付けて使用する工具の一つです。本体は円柱状で、複数の切れ刃を持ち、回転運動によってワーク(被材物)を切削します。最大の特長は、側面と底面の両方に切れ刃を備えていることで、これにより多様な加工を実現できます。

切削工具としての特徴とメリット

エンドミルの強みは、優れた汎用性にあります。単なる穴あけにとどまらず、溝加工、側面加工、曲面加工など、幅広い用途に対応します。一本で複数の加工をこなせるため、工具交換の頻度が減り、作業の効率化が図れます。

ドリル、タップ、リーマとの違いを解説

切削工具の中で、エンドミルはドリル、タップ、リーマと混同されがちですが、それぞれ独自の目的と機能を持っています。

ドリルとの違い:穴あけ vs. 多様な加工

ドリルは穴あけに特化した工具として知られています。先端の切れ刃を用いて回転し、ワークに穴を形成します。これに対しエンドミルは側面にも切れ刃があり、穴あけだけでなく、溝加工や側面加工など、より広範な加工に活用できます。

タップとの違い:ネジ切り vs. 溝加工・側面加工

タップは、ドリルで開けた下穴にネジ山を形成するための専用工具です。タップの外周には、作りたいネジ山と同じピッチの切れ刃が段付きで付いています。この切れ刃が徐々に深く切り込んでいき、正確なネジ山を作ります。エンドミルが多様な切削加工に対応する汎用工具であるのに対し、タップはネジ加工に特化した工具という点が大きな違いです。

リーマとの違い:穴の仕上げ vs. 素材の削り出し

リーマの主な役割は、既に開けられた穴の内径を精密に仕上げることです。これに対しエンドミルは、材料を新たに切削して目的の形状を作り出す加工を行います。


エンドミルの種類と用途

加工の効率と精度を高めるには、用途に合わせたエンドミルの選択が不可欠です。形状によってそれぞれに得意とする加工があります。ここでは、主要なエンドミルの特徴と使い方を解説します。

スクエアエンドミル

最も一般的なスクエアエンドミルは、平らな先端面と外周の切れ刃が特徴です。平面加工や溝加工において高い性能を発揮し、汎用性に優れています。

スクエアエンドミルが使用される加工例

  • 溝加工
  • 側面加工
  • ポケット加工
  • 座ぐり加工
  • リブ加工

センタカットとセンタ穴付きの違い

スクエアエンドミルは、センタカットタイプとセンタ穴付きタイプに大別されます。センタカット品は中心部まで切れ刃があるため、穴あけ作業も可能です。一方、センタ穴付き品は中心に切れ刃がない代わりに、再研磨時の精度が高いという利点があります。

ボールエンドミル

先端部が球状の切れ刃を持つボールエンドミルは、曲面加工の専門家です。金型製作や模型加工など、立体的な形状の加工に威力を発揮します。スクエアエンドミルでは困難な側面のR加工も得意としています。

ボールエンドミルの使い方と注意点

球状の先端形状により、切削速度は位置によって変化します。先端に近づくほど速度が低下し、特に中心部では切り屑の排出が悪化するため、使用時は注意が必要です。

ラジアスエンドミル

ラジアスエンドミルは、平面と曲面の両方の加工に対応できる多目的工具です。ボールエンドミルと似た用途もありますが、直角部の加工はできません。

スクエアエンドミル、ボールエンドミルとの使い分け

ラジアスエンドミルは、底刃で平面を、コーナーR部で曲面を加工します。ボールエンドミルと比べると、刃先Rの大きさに関係なく大きな刃径を選べるため、より高い切削条件で作業でき、加工時間を短縮できます。

ラフィングエンドミル

外周刃に波状や溝状の形状を持つラフィングエンドミルは、切削性能を重視しています。荒加工において優れた能力を発揮し、効率的な切削が可能です。

スクエアエンドミルとの違い

荒加工ではスクエアエンドミルも使用できますが、ラフィングエンドミルはより高い切削性能を持ち、作業時間の短縮や工具の長寿命化が見込めます。ただし、切削面に細かな溝が残るため、仕上げ加工には向いていません。

テーパエンドミル

円錐状の外周刃を備えたテーパエンドミルは、傾斜面の加工に特化しています。金型の抜き勾配部の加工やリブ溝の加工などで活躍します。

テーパ角度の選び方

工具メーカーには様々な角度のものが標準的にラインナップされており、加工対象の形状や目的に応じて適切なテーパ角度を選択します。
補足:これらの用途例は代表的なものであり、実際の加工では被削材や条件に応じて適切なエンドミルを選定する必要があります。また、各エンドミルの詳しい特徴や使用法については、製造元のカタログや技術資料を参照してください。


エンドミル選びの4つのポイント:材質・コーティング・刃数・サイズ

エンドミルの性能を最大限引き出すには、材質、コーティング、刃数、サイズという4つの要素の検討が欠かせません。これらの要素を適切に組み合わせることで、加工効率、精度、工具寿命を最適化できます。

材質で選ぶ:ハイス vs. 超硬

ハイスエンドミルの特徴

高速度鋼(HSS)製のハイスエンドミルは、価格面での優位性があり、靭性が高くチッピングや欠損のリスクが低いのが特長です。これにより、コストを抑えつつ安定した加工を実現できます。ただし、超硬エンドミルと比べると切削速度が制限され、加工可能な材料も限られるため、用途を見極める必要があります。

超硬エンドミルの特徴

超硬合金(WC-Co)を用いた超硬エンドミルは、価格は高めですが、優れた硬度と耐摩耗性を持ち、高速切削や硬質材料の加工に適しています。また、高い耐熱性により効率的な加工が可能です。初期投資は大きくなりますが、生産性を重視する現場では標準的な選択肢となっています。

被削材に合わせた材質選択

被削材の硬度が材質選択の重要な基準となります。

  • 軟らかい材料(アルミ、銅、真鍮など): ハイスエンドミルで十分対応できます。
  • 中硬度または高硬度材料(鉄鋼、鋳鉄、ステンレス鋼など): 超硬エンドミルが推奨されます。
  • 高硬度材料(焼入れ鋼など): 超硬エンドミルに加え、適切なコーティングと刃数の選択が必要です。

コーティングで選ぶ:耐摩耗性・潤滑性アップ

コーティングの役割と効果

エンドミルの表面に特殊な膜をコーティングすることで、耐摩耗性、耐熱性、潤滑性を強化します。
使用目的や被削材に応じて最適なコーティングを選択することで、以下の効果が見込まれます。

  • 工具寿命の延長
  • 切削速度の向上
  • 加工精度の向上
  • 表面粗さの改善

主なコーティングの種類と特徴

代表的なコーティングには以下のようなものがあります:

  • TiN(窒化チタン)コーティング: 汎用性の高いコーティングです。
  • TiCN(炭窒化チタン)コーティング: TiNよりも硬度と耐摩耗性に優れます。
  • TiAlN(窒化アルミニウムチタン)コーティング: 耐熱性に優れ、高速切削に適しています。
  • AlCrN(窒化アルミニウムクロム)コーティング: 高硬度材の加工に適しています。
  • DLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティング: 摩擦係数が低く、非鉄金属の加工に適しています。

被削材と加工内容に合わせたコーティング選択

加工対象や作業内容に応じて最適なコーティングを選びます。

  • 鋼材: TiAlN、AlCrNなど耐熱性の高いタイプを選択します。
  • ステンレス鋼: TiAlN、AlCrN、TiSiNなど耐摩耗性の高いものが適しています。
  • アルミ合金: DLCまたはノンコートが推奨されます。
  • 荒加工: 耐摩耗性を重視したコーティングを使用します。
  • 仕上げ加工: 表面品質向上に効果的なコーティングを選びます。

刃数で選ぶ:切り屑排出性と剛性のバランス

刃数の違いによる特徴

エンドミルの刃数は、切り屑の排出しやすさと工具の剛性に大きく影響します。
刃数が多い場合:

  • 工具の剛性が高まり、振動が抑制されます。
  • より速い送り速度での加工が可能です。
  • 切り屑の排出効率は低下します。

刃数が少ない場合:

  • 切り屑の排出が容易です。
  • 剛性が低く、振動が発生しやすくなります。

加工内容に合わせた刃数選択

加工の種類によって最適な刃数が異なります。

  • 溝加工: 切り屑の排出を優先し、2枚刃が適しています。
  • 側面加工: 工具の剛性を重視し、4枚刃以上が適しています。
  • 高硬度材の加工: 振動抑制のため、4枚刃以上が適しています。

2枚刃、3枚刃、4枚刃、多刃の特徴と使い分け

  • 2枚刃: 切り屑排出に優れ、溝加工に最も適しています。
  • 3枚刃: 2枚刃と4枚刃の特性を併せ持ちます。
  • 4枚刃: 高い剛性で、側面加工や硬質材の加工に向いています。
  • 多刃(5枚刃以上): さらなる剛性向上により、高能率な加工を実現します。

サイズで選ぶ:加工精度と効率を左右する

刃径と刃長の選び方

必要な溝幅や穴径に応じて刃径を、加工深さや形状に応じて刃長を決定します。加工精度を重視する場合は、できるだけ太い刃径で短い刃長のエンドミルを選択することが重要になります。

シャンク径の選び方

工作機械のコレットチャックの仕様に合わせてシャンク径を選択します。太いシャンク径は剛性を高めますが、使用する機械の制約を考慮する必要があります。

加工内容に合わせたサイズ選択

作業内容に応じて最適なサイズを判断します。

  • 深い溝加工: ロングネックタイプを使用します。
  • 狭小部の加工: ショートタイプやマイクロエンドミルが適します。
  • 高精度加工: 剛性確保のため、太い刃径で短い刃長を選びます。


エンドミルの寿命を延ばす:再研磨・再コーティング

エンドミルは使用に伴い摩耗し、切れ味が低下していきます。しかし、適切な管理とメンテナンスにより、寿命を延ばし、切れ味を回復させることができます。

エンドミルの寿命:摩耗のサインを見逃さない

摩耗の種類と原因

エンドミルの摩耗は以下の4種類に分類されます。

  • 機械的摩耗: 被削材中の硬質粒子が切れ刃を削り取ることで生じます。
  • 溶着摩耗: 工具の表面に被削材が付着し、剥離する際に工具の一部も失われます。
  • 拡散摩耗: 工具と被削材の間での相互拡散により、軟質な化合物が生成されて摩耗します。
  • 化学的摩耗: 切削油や空気中の酸素との化学反応により、工具表面が劣化していきます。

寿命を縮める要因

工具寿命に影響を与える主な要素として、切削速度、送り量、切り込み量、被削材の硬さ、切削油の種類が挙げられます。これらの条件を適切に管理することで、摩耗の進行を抑制できます。

再研磨で新品同様の切れ味に

再研磨のメリットと注意点

刃先の再研磨により工具を再生できます。切れ味と加工精度が回復し、工具の延命が可能です。
ただし、再研磨には回数の制限があり、実施により全長や刃径が減少します。不適切な再研磨は切れ味を悪化させる可能性があるため、専門業者への依頼が推奨されます。

再コーティングで性能復活

再コーティングのメリットと注意点

再研磨後の工具に新たなコーティングを施すことで、性能を回復できます。コーティングの劣化や剥離が生じた工具に再度施工することで、耐摩耗性、耐熱性、潤滑性を取り戻すことができます。
ただし、再コーティングにも実施可能回数の制限があり、コーティングの種類によっては再施工できない場合もあります。

適切なメンテナンスでコスト削減

高価なツールであるエンドミルは、適切なメンテナンスにより寿命を延ばすことでコストを抑制できます。再研磨や再コーティングを活用することで、新規購入の頻度も低減できます。
定期的な状態確認で摩耗の兆候を早期に発見し、タイミングを逃さず再研磨や再コーティングを実施することが、長期使用への鍵となります。


まとめ

切削加工に不可欠なエンドミルは、形状、材質、コーティング、刃数など、複数の要素を考慮して選定する必要があります。各特性を理解し、加工目的に応じた選択をすることで、高精度かつ効率的な加工を実現できます。また、計画的なメンテナンスにより、工具寿命の延長とコスト削減が可能です。
エンドミルの選定と切削条件は、加工内容、被削材、機械性能により異なります。加工のご相談は、まずは私たちにお気軽にお問い合わせください。 最適な工具選定から切削条件の設定まで、総合的にサポートいたします。


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