
宇宙ベンチャーは認証不要で参入できる?中小企業のための航空宇宙部品受注戦略
前回の記事では、航空機産業と宇宙産業がまったく異なる品質基準・認証要件を持つ市場であることを整理しました。
では実際に、中小企業はどのようにしてこの世界に足を踏み入れ、取引を広げていけばよいのでしょうか。今回は具体的な事例を交えながら、参入から取引拡大までの実践的な戦略を見ていきます。
※本記事は、成城大学教授の山本 匡毅 氏が登壇した
「中小企業における航空宇宙部品産業への発展戦略セミナー」の内容に基づいて作成しています。
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宇宙ベンチャーとの取引
意外に知られていないのですが、宇宙ベンチャーとの取引には、原則としてJISQ9100の認証は不要です。伝統的な宇宙産業がJAXA主導で品質に極めて厳しい姿勢を貫いてきたのとは対照的に、民間の宇宙ベンチャーが担う領域では、まず試作品を作ってくれるサプライヤーを見つけること自体が優先課題になっているケースが多いのです。認証という参入障壁が低い分、実は中小企業にとって間口の広い市場だと言えます。
宇宙部品がこれまでいかに厳格な認証プロセスを経てきたかは、ある企業の例からも窺えます。山形県のOKIサーキットテクノロジーは、JAXA向けの航空宇宙産業用プリント配線板を製造していますが、品種ごとにJAXAから数年がかりで認定を取得するという工程を経ています。これと比べると、宇宙ベンチャー向けの参入がいかに容易であるかが実感できるはずです。
とはいえ、宇宙部品には別の難しさもあります。取引量が非常に少量で、なかには試作品や一品物といった案件も多いため、ロットで1万個単位を作るような企業には向かず、逆に多品種少量生産が得意な企業のほうがフィットしやすい分野です。宇宙部品だけを単独の事業として採算に乗せるのは、現状ではまだ容易ではありません。それでも、宇宙関連の受注実績は自社のPR材料としても使いやすいという副次的な価値があり、そうした観点から参入を検討する企業も少なくないようです。
なお、宇宙部品の発注元は大手重工メーカーや宇宙ベンチャーだけとは限りません。航空宇宙分野の研究室を持つ大学も、人工衛星の推進装置などの試作開発を機械加工業者に発注する発注元になり得ます。大学発の宇宙関連プロジェクトが動いていないか、地域の産学連携の動きにも目を向けておく価値があるでしょう。
宇宙ベンチャーが抱える「サプライヤーが見つからない」という課題
インターステラテクノロジズやスペースワン、AstroXといった宇宙ベンチャーは、国の補助金や民間の出資を受けて開発費を潤沢に投じています。ところが、いざ試作を依頼しようにも、どこに発注すればよいか分からない、見積もりの取り方すら分からないという企業が少なくありません。ある展示会では「部品や製品を手配したいが、誰に相談したらいいか分からない」という悩みがそのまま掲示されていたという話もあるほどで、ここに中小企業にとっての明確なビジネスチャンスが存在します。
知り合い経由・展示会経由での受注が生まれる理由
宇宙ベンチャーの発注は、社内人材の知り合いの企業に流れる傾向が強いと言われます。これは、宇宙ベンチャー自体にサプライヤーを見極める目利き力がまだ十分に育っていないことが背景にあります。信頼できる相手として、もともとモノづくり業界にいた人材が個人的に知る企業に声がかかりやすいわけです。とはいえ、知り合いがいない企業に道が閉ざされているわけではありません。宇宙ベンチャーの側も外注先を探すために積極的に展示会へ出展しており、そこでのちょっとした会話が受注のきっかけになることは十分にあり得ます。
取引前に確認すべきこと
一方で注意も必要です。宇宙ベンチャーには、すでにビジネスとして軌道に乗っている企業もあれば、始まったばかりのスタートアップ段階の企業もあります。なかには一定のレベルに達した後、国の補助金が打ち切られたことをきっかけに経営が行き詰まったケースも見られます。将来的な資金回収を確実にするためには、相談を進める際に開発フェーズと財務状況をあわせて見ておくことが、地味ですが重要な自己防衛策になります。
もう一点、地域特有の注意点も知っておきたいところです。この数年、補助金の関係もあって福島県南相馬市には宇宙スタートアップが集積していますが、福島県や復興関連の補助金を財源とする案件には「福島県内の企業への発注」という条件が付いていることがあり、県外企業が受注できなかった事案も実際に起きています。特定の地域の宇宙ベンチャーへ営業をかける際は、この点をあらかじめ確認しておくと無駄足を避けられます。

実例に学ぶ参入から取引拡大までのプロセス
インコネル加工セミナーでの名刺交換から始まった取引
半導体製造装置向けのワイヤーハーネス製造を手がけていたある企業は、テレビドラマをきっかけに航空宇宙分野への参入を志し、地方銀行が主催したインコネル加工セミナーに社長みずから参加しました。自社ではインコネルの加工はできなかったにもかかわらず、参加した登壇企業の担当者に名刺を渡したところ、その担当者が別の関係会社の担当者へ名刺を回してくれたことがきっかけとなり、加工外注という形で新規参入を果たしています。
面白いのは、最終的に受注したアイテムが航空機でも宇宙でもなく、防衛関連の部品だったという点です。大手重工メーカーの航空宇宙部門は防衛も手がけていることが多く、両者は実質的に一体的な関係にあります。「航空宇宙を目指したら防衛の仕事が来た」というのは、この業界では決して珍しい展開ではありません。
この企業はその後、社内にパーテーションを設けた準クリーンルームの作業場を整備するなど環境面でも投資を重ね、2019年には宇宙ベンチャー向けの小型衛星部品加工を、2024年には大手メーカーの人工衛星部品の受注を実現するまでに事業を広げています。空飛ぶクルマの部品加工にも対応しているため、参入の幅は着実に広がっているようです。取引先から支給される図面をもとに製造・納入するのが基本スタイルで、仕様変更が少ないという取引の安定性も特徴として挙げられます。一方で、スタートアップ系の発注元は正式な図面を提供してくれないことも多く、その場合は受注側が自ら図面を起こし、3D CADでモデリングする対応力まで求められるという実務上のハードルも押さえておきたいところです。
航空機部品を加工する工場のみで認証を取得した企業
薄肉切削加工を得意とする、ある機械加工企業の例も参考になります。自動車用ベアリングや半導体製造装置部品を主力としながら航空機部品にも取り組んでいたこの企業は、航空機部品を製造する工場のみでJISQ9100を取得し、大手メーカー数社との取引を実現しました。あるメーカーとは特機事業部や防衛用の取引、別のメーカーとは航空機向けベアリングの15年に及ぶ長期取引が続いています。会社全体で認証を取る必要はなく、対象工程だけで足りるという実務知見が、この事例からもはっきり見て取れます。
もう一つのメーカーからの受注は、少し変わった経緯で生まれました。数年前まで自衛隊向けの防衛装備品は価格水準が低く、多くの企業がこの分野の仕事から撤退した時期があります。その結果としてサプライヤー不足が生じ、この企業に自衛隊機のブレーキアッシー加工が転注という形で舞い込んできたのです。その後も別のメーカーの対潜哨戒機部品を受注し、さらに現在では昇降舵部品のモジュールを月30台生産するまでに拡大しました。国内で航空機部品の品質でこなせる旋盤加工業者そのものが減少しているという業界側の事情も、この企業への発注集中を後押ししています。今後は機械加工にとどまらず非破壊検査までを一貫で担うべく、Nadcap取得も視野に入れているといいます。
認証を持たない企業でも受注できる分業の手法
意外と知られていないのが、JISQ9100を持たない企業でも航空機部品の加工に参加できる仕組みです。ある地域では、9100を保有する企業が荒加工を担当し、9100を持たない企業が仕上げ加工を担うという分業が行われていました。仕上げを担当した企業が完成品として認証を持っていなくても成立するのは、9100保有企業の側が最終的な品質保証・検査を行うことで、全体として認証要件を満たす形にできるためです。ただしこれはやや高度な手法であり、実施にあたっては個別に確認しながら進める必要があります。認証取得のハードルの高さに二の足を踏んでいる企業にとっては、選択肢の一つとして知っておく価値があるでしょう。
地域ぐるみの支援体制と展示会活用戦略
企業単体だけでなく、地域ぐるみで取り組んだ事例も見逃せません。

ある県では、県と産業支援機関が連携して航空宇宙クラスターを組織し、参画条件としてJISQ9100の取得を課したうえで、アメリカのスモールサテライトカンファレンスやドイツのスペーステックエクスポといった海外展示会、さらには国内の宇宙ビジネス展示会へ共同出展する体制を整えました。受注案件ごとに窓口企業を決めて共同生産を行う仕組みにより、クラスター全体の受注金額は数億円規模に達しています。加工内容としてはアルミの削り出しが中心ですが、3Dプリンターによる造形部品やCFRPの積層部品にも対応しており、扱える範囲は決して狭くありません。また、日本航空宇宙学会が主催する宇宙科学技術連合講演会(通称・宇科連)のような、研究者ネットワークが集まる場に足を運んで人脈を広げていることも、この地域の特徴です。展示会を「コストのかかるもの」と捉えるのではなく、新しい取引を生み出すための投資と位置づけている点が、この地域の強みだと言えるでしょう。
別の県では、航空宇宙産業支援への着手自体は他地域より遅れていたものの、大手重工メーカーのOB3名を産業支援機構が3年間雇用し、コーディネーターとして県内企業のJISQ9100取得支援やエアロマート等の商談会・展示会への共同出展支援にあたらせました。この結果、県内のJISQ9100取得企業数は2015年度以前の10社程度から、コロナ前のピーク時には25社まで増加し、取引先も装備品メーカーや国内ベアリングメーカーへと広がっています。行政による「伴走支援」が中小企業の参入障壁を実際に下げた好例と言えそうです。
こうした地域ぐるみの取り組みが積み重なった結果、航空機部品産業の集積は三大都市圏だけにとどまらず、地方圏でも一定数見られるようになってきています。

航空機部品の一括生産化で利益率を高める
のこぎり型生産方式と一貫生産方式の違い
かつての航空機産業では、大手重工メーカーが機械加工、熱処理、ショットピーニング、表面処理といった工程ごとに個別の取引先へ発注し、仕掛品の管理と検査を発注元自身が担う「のこぎり型生産方式」が主流でした。安定的で確実な物づくりができる反面、コストがかさみ、リードタイムも長くなる非効率さを抱えていたのです。かつての民間航空機は月産で数機程度と生産量自体が少なく、自衛隊向け機に至っては年産数機というレベルだったため、そもそも生産性を追求する必要性が薄かったという背景もあります。
転機となったのは2010年代です。ボーイング787の量産が本格化し月産7〜10機規模(ピーク時には月産14機)にまで拡大したこと、そしてほぼ同じ時期に三菱リージョナルジェット(国産ジェット機)の量産開発が始まったことが重なり、従来ののこぎり型の生産体制ではコストとリードタイムの両面で立ち行かなくなりました。この2つの出来事をきっかけに、業界は「一貫生産方式」へとシフトしていきます。Tier2にあたる窓口企業がモジュール単位で発注を受け、材料調達から熱処理・表面処理、非破壊検査、最終的な品質保証までを一括で担う仕組みです。

ボトルネックとしての表面処理
一貫生産化を進めるうえで意外な壁になっているのが特殊工程です。なかでも表面処理は対応できる企業自体が少なく、業界全体で慢性的なボトルネックになりつつあります。熱処理やショットピーニングと比べても、表面処理を担える企業の希少性は際立っているというのが実情です。逆に言えば、ここに設備投資と人材育成で先行できる企業は、Tier2としての競争力を大きく高められる立場にあります。非破壊検査についても、蛍光浸透探傷検査と磁粉探傷検査のどちらを行うかは受注するアイテムによって異なるため、あらかじめどちらか一方の設備に絞って先行投資することは難しく、受注が決まってから設備を導入する形にならざるを得ません。加えて実施にはレベル2以上の資格を持つ人材が必要になるなど、育成には一定の時間とコストがかかりますが、一括生産へ踏み出すかどうかを判断する分岐点はまさにここにあると言えるでしょう。
経営リスクを分散する
航空機部品を専業にすることは、世界的な政治・社会情勢の変化に経営が直接左右されることを意味します。中小企業が安定した経営を続けるためには、複数の経営の柱を持ち、いわゆる「両利き経営」を実践していくことが望ましいとされています。
実際、航空機産業の中小企業にとって、いかに経営上のリスクをヘッジできるかは、成長産業であることと同じくらい重要な視点です。
海外取引拡大に向けた英語人材と展示会活用
航空機の機体メーカー・エンジンメーカー・装備品メーカーの多くは海外企業であるため、発注元も自然と海外の比率が高くなります。海外の航空機メーカーとの取引を伸ばしていくうえで必須というわけではありませんが、営業や交渉を英語でこなせる人材がいる企業ほど引き合いを取り込みやすいのも事実です。
とりわけ近年は、コロナ禍で経営を縮小した海外サプライヤーが多く、アメリカを中心に既存のサプライヤーだけでは手が足りず、英語で対応できる日本企業への引き合いが増えている状況があります。体制が整った先には、イギリスのファンボロー・エアショーやシンガポール・エアショーといった海外展示会への出展という選択肢も見えてきます。こうした展示会への出展は、県や産業支援機関、ジェトロの支援策が用意されていることも多いため、情報収集からまず始めてみる価値があるでしょう。
まとめ
ここまで見てきた事例に共通しているのは、どの企業も最初の一歩は展示会や商談会での偶然に近い出会いだったという点です。航空宇宙部品の受注のチャンスは、待っていても向こうからはやってきません。実際、ある地域の取引商談会には、航空機エンジン部品が好調であるがゆえにサプライヤー不足に陥ったTier2企業が、インコネルを削れる企業を探して、逆に発注側として出展していたという例もあります。先ほど紹介したインコネル加工セミナーの一件と同じく、この素材を扱える技術は今も業界内で引き合いが強いのだと分かります。商談会や展示会がすぐに取引へ結びつくとは限りませんが、そこに足を運ぶという「無駄」を重ねなければ、新しい取引は始まらないというのが、この業界の一つの真実だと言えそうです。
今回ご紹介した内容は、成城大学・山本匡毅教授によるセミナー「日本の中小企業における航空宇宙部品産業への発展戦略」の一部です。当日の講演はアーカイブ動画でもご覧いただけますので、あわせてご視聴ください。



