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カーボンニュートラルは省エネ改善から|工場の失敗事例と2つの分析手法

カーボンニュートラルへの対応が、製造業にとって事実上の経営の前提条件になりつつあります。とはいえ、いざ取り組もうとすると何から手をつければよいのか分からない。これが現場の正直なところだと思います。結論を先に言えば、カーボンニュートラルの第一歩は日々の省エネ改善です。本記事では、その理由と、工場の省エネ改善でよくある失敗事例、成果につながる2つの分析手法を、具体的な改善事例とあわせて解説します。

この記事の目次[非表示]

  1. カーボンニュートラルの第一歩が省エネ改善である理由
  2. カーボンニュートラルが進まない本当の理由
    1. 陥りがちな失敗事例
  3. 省エネ改善の具体的な分析手法
    1. マクロ分析|デマンドデータの回帰分析で固定エネルギーを見つける
    2. ミクロ分析|エネルギーフロー分析でムダを可視化する
  4. まとめ|カーボンニュートラルは小さな分析から始まる

カーボンニュートラルの第一歩が省エネ改善である理由

カーボンニュートラルというと環境対応のイメージが先行しがちですが、実際にはもっと切実な経営課題です。エネルギー価格は世界情勢の影響を受けやすく、今後、電気代がさらに大きく上がる可能性も指摘されています。CO2削減とエネルギーコスト削減は表裏一体であり、省エネは利益を守りながら排出量を減らす取り組みなのです。

国際的にも、省エネルギーはカーボンニュートラル達成の「第一の燃料」と位置付けられています。太陽光発電の導入やクレジット購入を検討する前に、まず土台になるのが日々の省エネ改善だといえるでしょう。

ここで押さえておきたいのが、取り組みの順序です。まず省エネ改善でムダを省き、コスト削減という「現金」を生み出す。次に、その資金を太陽光発電などの再エネ投資に回す。そして、どうしても自社で削減しきれない部分にだけカーボンクレジットを使う。クレジットは実質的な罰金のようなものと考え、頼る比率を最小限に抑えるのが望ましい姿です。いきなり設備投資やクレジット購入から入るのは、順序が逆なのです。

カーボンニュートラルが進まない本当の理由

資源エネルギー庁の調査では、日本の産業の8割はカーボンニュートラルに取り組めていないとされています。

体制がないわけではありません。推進組織を立ち上げ、削減計画を作り、役員会議で進捗を確認する。ここまでは多くの企業が既にやっています。それでも進まないのは、現場に課題が残っているからです。人材が足りない、情報が多すぎて(あるいは少なすぎて)何を信じればよいか分からない、そもそも具体的な進め方が分からない。仕組みは整っているのに手が動かない、というのが実態に近いでしょう。

陥りがちな失敗事例

進め方の前に、まず「やってはいけないこと」から見ていきます。実務上、失敗のパターンはかなり共通しているためです。

担当者への丸投げ

省エネ担当を任命して、あとはお任せ。よくある光景ですが、担当者一人の努力で工場全体のエネルギーが減ることはまずありません。組織として主体的に関わる姿勢がなければ、活動は早々に形骸化してしまいます。

実現性のないロードマップ

立派な削減計画を作ったものの、実現手段の裏付けがなく、フォローアップもされない。計画は作ること自体が目的ではないはずです。実行と検証がセットになっていない計画は、絵に描いた餅で終わります。

勘と経験による決めつけ

「うちで電気を食っているのは、どうせあの炉だろう」。こうした勘・コツ・度胸だけの判断で対策を打つのは危険です。思い込みが外れていれば、費用も工数も無駄になります。犯人捜しはデータで行うべきなのです。

根拠のない横展開

これは特に注意したい失敗です。ある工場では「炉には断熱材が効く」という成功体験を、ロジックの検証なしに全設備へ展開してしまいました。その結果、温度の低い塗装乾燥炉のような効果の薄い設備にまで多額の費用と工数をかけて断熱材を貼り、ほとんど効果が出なかったのです。

横展開すべきは「断熱材」という対策そのものではなく、「分析に基づいてどこに手を打つかを決める」という考え方でした。答えの丸写しではなく、解き方を共有するイメージです。他社事例や展示会の新技術に飛びつくときも同じで、自社のラインに合うかどうかをロジカルに見極める必要があります。

省エネ改善の具体的な分析手法

改善の根本はムダを見つけることです。経済産業省が掲げる「やめる、直す、止める、下げる、拾う、変える」という6つの着眼点に対し、「どこを」改善すべきかを分析する手法が重要になります。分析にはマクロとミクロの2段階があります。

マクロ分析|デマンドデータの回帰分析で固定エネルギーを見つける

最初の一歩としておすすめしたいのが、電力会社から入手できるデマンドデータ(電力使用量データ)の活用です。電力使用量と生産量をグラフにして回帰分析を行うと、一本の直線が引けます。ここで注目すべきはY切片、つまり生産量がゼロのときに消費されている電力です。これが待機電力・固定エネルギーの正体で、工場が止まっていても流れ続けている電気ということになります。

デマンドデータの回帰分析

実際にあった事例を紹介しましょう。

あるラインには「月曜の立ち上がりが悪くなるから電源を切るな」という長年の慣習がありました。いわば職場の都市伝説です。ところが分析してみると、一部の重要設備を除けば電源を切っても問題ないことが判明しました。不要な電源を遮断しただけで、削減額は年間430万円。投資はほぼゼロです。まずは自社のY切片がどれくらいあるか、確かめてみる価値は十分にあります。

ミクロ分析|エネルギーフロー分析でムダを可視化する

マクロ分析で狙いをつけたら、次は設備単位のミクロ分析です。エネルギーフロー分析とは、投入したエネルギーが最終的に何に使われているかを分解して可視化する手法を指します。

やってみると、驚くような実態が見えてきます。熱処理炉では、投入エネルギーの大半が放熱などで失われ、肝心の製品加熱に使われているのはわずか数%というケースがあります。

切削加工機も同様です。ある8インチ複合旋盤の4サイクルを分析したところ、実際に「削る」ために使われていたエネルギーは全体の16%に過ぎませんでした。残りは待機電力や、チップコンベア・照明といった周辺機器の消費だったのです。

この旋盤では、加工動作に合わせて照明を消す、削るときだけコンベアを動かすといった電気図面の修正を行いました。改造費は約20万円。それだけでエネルギー効率は16%から21%に向上し、消費量としては29%の削減、投資回収はわずか3ヶ月でした。大がかりな設備更新をしなくても、分析さえ正しければ小さな改造で大きな成果が出る好例といえます。

まとめ|カーボンニュートラルは小さな分析から始まる

カーボンニュートラルと聞くと大きな設備投資を想像しがちですが、実際の第一歩はもっと足元にあります。
デマンドデータで固定エネルギーを把握し、エネルギーフロー分析で設備のムダを可視化し、6つの着眼点で対策を立てる。
そして成果が出たら、対策ではなく考え方を横展開する。この省エネ改善の積み重ねがCO2排出量を減らし、生み出したコスト削減分が再エネ投資の原資になる、というのがカーボンニュートラルへの現実的な道筋です。

まずは電力データと生産量のグラフを一枚作ってみるところから始めてみてはいかがでしょうか。

堀川 宏
堀川 宏
トヨタ自動車株式会社  モノづくり開発センター CNCEモノづくり開発室 主査 生産技術を専門領域とし、機械加工・鋳造を中心に様々な工法を経験。ターボ設計、工法開発、生産準備・製造準備から生産維持、企画・人事まで幅広い業務領域に携わる。現在は主に仕入先向けのカーボンニュートラル推進を担当し、実践的手法をセミナー登壇等を通じて広く発信している。

<会社概要>
企業名 : トヨタ自動車株式会社
事業内容 : 自動車の生産・販売
本社住所 : 愛知県豊田市トヨタ町1番地
URL :
https://hojyokin-portal.co.jp/


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