
【MEX金沢2025】人手不足解決に挑む!進化する自動化と工程集約技術
2025年5月、石川県産業展示館でMEX金沢が開催され、3万3181人が来場しました。1号館が新たに会場に加わったこともあり、過去最大の279企業・団体、850小間となりました。2025年のテーマは「技術が切り拓く、未来の鼓動」です。
この記事の目次[非表示]
開会式では来賓を代表して馳浩石川県知事が「過去最大規模であり最先端の展示会です。そこで県内の大学生の皆さんと企業のマッチングも行います。また過去最大の200社以上の県外からの参加もありました。感謝申し上げます。ぜひ県内企業は県内で学生が就職できるようPRしてほしい」と祝辞を述べました。
主催する石川県鉄工機電協会の稲葉良二専務理事にも取材しましたが「人手不足は極めて深刻で50人以下の企業では日本人の採用はかなり厳しいです」と苦境を語り「富山県や福井県の学校にも声掛けし700人以上の学生を招待。地元企業とマッチングしています」と話します。
テープカット 右から5番目が馳浩石川県知事
同展示会は、特に地方都市で深刻化する人手不足に対するハード面とソフト面からの課題解決を目指しているのが見て取れます。
ただ、「人手不足」「工程集約」をテーマにすると、どこも似たような展示会になりがちです。しかしながら北陸地方は建設機械やその関連産業が多い、旋盤メーカーが多いなど、地域特性があり、MEX金沢ならではの特徴が浮き立っています。
ヤマザキマザックが複合機エントリーモデル「INTEGREX j-200 NEO」を初だししたり、ブラザー工業は担当者が「建機など大型ワークが多い北陸地域でも40番からの買い替え需要を狙えます」と語るSPEEDIO「W1000Xd2」を提案。鋼ブロック材(S50C)などの重切削をアピールするなど「MEX金沢ならでは」の展示が来場者を魅了していました。
石川県鉄工機電協会の会員は小規模受注側企業が多いのが特徴です。会員企業のDXや省力化に貢献する11社・1団体とデジタルマッチングをする同協会のブースは今回が初登場。人手不足や省力化に本気で力を入れています。この展示会で得られる知見は、他の地域にも横展開が可能だと思われます。
そこで省人化・省力化に資する機械やソリューション、ユーザー企業の競争力強化や差別化に貢献する最新機などを取材し、読者の皆様にお届けしたいと思います。すべてを取材は出来ませんでしたが、有力企業のブースをめぐり、自動化や工程集約、競争力強化につながる機械を特にピックアップします。
澁谷工業 ファイバーレーザー加工機『ファルコン-S 48』
業界最小の設置面積を実現
澁谷工業は4’×8’(1250×2550mm)の加工範囲を持つファイバーレーザー加工機では業界最小クラスの設置面積を実現する「ファルコン-S 48」を提案していました。オートフォーカス機能を標準で搭載しており、発振器、NCを内蔵したコンパクト設計が特徴です。またカバーがスライドすることで4方向(前面、天面、両側面)からワークの供給が行え、多品種少量生産に対応しています。
微細加工で新たな仕事を
勝田宏也執行役員は「我々の狙いは2,3kwの、ボリュームゾーンのCO2ガスレーザー機。ここからの置き換え需要を狙っており、サイズと価格を抑えました。軟鋼は板厚12 mm、ステンレスは同6mmまでの切断が可能でアルミは同6mm、銅は同4mmまでが切断可能。その上、付加価値として微細加工も可能です」とし、「これまでの板金の仕事だけでなく、医療関係など新しい仕事も受注できます」とメリットを話しました。
新規の案件獲得につながる提案というのは、具体的に経営戦略も描きやすいですし、何よりポジティブな印象を受けました。
ファイバーレーザー加工機「ファルコン-S 48」
タケダ機械 平板ドリルマシン『ABP-616SⅣ』
デザイン一新 軸制御のスピードを25%アップ
平板ドリルマシン「ABP-616SⅣ」を参考出品したのはタケダ機械です。
デザインを一新、青を基調とした近未来感のあるデザインが会場で目を引いていました。
担当者は「機能性と合わせて、付加価値向上と差別化を目指しデザインにこだわりました」と話します。
また重要な機能面にも注力し、軸制御のスピードを25%アップしたほか、ツーリングのストックも12本(従来機10本)に増やし「夜間運転など、省人化に貢献できます」と自信をのぞかせました。
インバーター制御による省エネ化
また油圧ユニットにインバーター制御を採用し、静穏性と電気代(消費電力)の削減も目指していました。担当者は条件によって異なるため明確な数字が出せないとしつつも、「従来機では加工時もスタンバイ時も油圧を同様に使っていましたが、新機種ではアイドリング状態のときは最低限の回転に落とすことで電気代を抑制しています」と語っています 。
また発売時期は未定ですが、「今年中から来春にはリリースしたい」ようです。
夜間運転というのは、自動化の一つの目標でもありますし、生産性を劇的に向上します。競争優位を目指すには、取り組むべき指針ではないでしょうか。
平板ドリルマシン「ABP-616SⅣ」
ソディック 水仕様ワイヤ放電加工機『ALN600G』
3Dプリンタで造形した大型ワーク加工に対応
水仕様ワイヤ放電加工機「ALN600G」のハイコラム仕様を提案したのはソディックです。
担当者が「石川県のメーカーでワイヤ放電加工機を扱っている、とわかりやすくアピールしたかったです」と話すように、ワイヤ放電加工機の実機を正面に置いていました。
同機はX軸ストローク600mm ・Y 400mmとポピュラーサイズですが、Z軸を350mmから500mmに伸ばした特殊な仕様です。
「3Dプリンタで作った大型(厚みのある)のワークを切り出すのに向いています」と話します。
ワイヤ回転機構(i groove)で常に無消耗のワイヤ面で仕上げ加工する機能がついていますがZ軸が長い分、最大限の効果をあげると言います。
後付け加工装置『Smart-K1』で工程集約
またワイヤ放電加工機に後付けできる簡易イニシャルホール加工装置「Smart-K1」も参考出展されていました。これまでは細穴加工機を別に揃える必要がありましたが、同加工装置を後付けすれば、一台で細穴をあけてワイヤ加工を行えます。3分で脱着可能で、ワークを取り外さずに穴をあけられます。またワイヤ放電加工機のアシストプログラムで簡単に操作可能です。秋口の発売を目指しているとのことです。
工程集約は一つの流れですが、より簡易な後付けユニットで実現する提案は、多くのユーザーに刺さるのではないでしょうか。
「ALN600G」のハイコラム仕様 ソディック担当者が手に持っているのが簡易イニシャルホール加工装置「Smart-K1」
高松機械工業 省エネ・工程集約を実現する次世代旋盤ラインアップ
高松機械工業は学生向けの説明会会場を大きく構えていたのが特徴です。入口付近にあり象徴的な存在感を放っていました。機械ではCNC複合精密旋盤「XTL-8MYS」、CNC2スピンドル2タレット精密旋盤「XWT-8」、シャフト両端加工機&2スピンドル2タレット旋盤「XYT-51」などを訴求していました。
CNC複合精密旋盤『XTL-8MYS』
3種類ラインアップで多様なワークに対応
CNC複合精密旋盤「XTL-8MYS」には3種類のラインアップがありM=ミーリング、Y=シャフトワークに最適なY軸、S=サブスピンドル付きのバーションとなります。シャフトの最大加工長は404mm(XTL-8は同600mm、同MYは同508mm)で、高剛性の角スライド構造とメインスピンドルφ100、サブスピンドルφ75を採用しています。
担当者は「長尺ワークになるので心押しのためのテールストックを用意。標準搭載のサブスピンドルで完全同期回転による高精度均一加工を実現します」と話します。
省エネ機能でランニングコスト削減
省エネにも注力しておりローダーの機外速度を自動で最適化するシステムを搭載し「シャッターが開いてからワークを脱着し機外へ抜けるまでは加工のタクトタイムに関わりますが、それ以外の移動速度は最速でなくてもいいですよね。これまではすべてビュンビュン動かしていましたが、そこを抑制することで省エネに貢献します」と語ります。
また「仕上げ加工時にローダーが不必要に最速で動いて振動が影響する、という可能性も減らせる」ため加工精度にもプラスです。アイドルストップ機能により、段替作業時の電力抑制も行います。
様々な工夫や技術で省エネを実現する機械で、一つ一つは小さくても、塵も積もれば山となる、という例えもあるように、エネルギー価格高騰時代には必要なアプローチだと感じます。
CNC複合精密旋盤「XTL-8MYS」
CNC2スピンドル2タレット精密旋盤『XWT-8』
簡易テールストック搭載
CNC2スピンドルタレット精密旋盤「XWT-8」は2スピンドルの高い生産性をベースにDX技術とCN対策を兼ね備えた8インチの旋盤です。今展では開発中のサポートセンターを搭載した仕様を出展。テールストックほどの推力はないですが「小さなものならシャフトワークにも対応できる」と言います。こちらは精度試験終了次第販売開始となるようです。
リニアガイド採用 空冷システムで省エネ
「XWT-8」はXW130の後継機であり、主な進化ポイントはZ軸を滑りスライドからリニアガイドに変えたことで、潤滑油のランニングコストを低減します。また熱対策で主軸の台座部にあった冷却機構(冷却水を循環)を廃止し、空冷システムにして冷却水にまつわるランニングコストをなくした点です。
また同社独自の熱変位補正システム「サーモニー」をバーションアップ。
「代表点を設定し、温度の類似性などを決めて経時変化を補正します。このサーモニーと空冷システムを組み合わせることで安定した生産を実現しました」と語ります。
さらに大型タッチパネルを採用しており操作性が向上。「スマートフォンから入った世代は、ボタン操作に抵抗感があります。直感操作ができるので、若い世代の学習速度があがることを期待しています」と話します。
サポートセンターにも注目ですが、スマフォライクな操作性が、若者のモノづくりの現場を変えるかもしれません。
CNC2スピンドル2タレット精密旋盤「XWT-8」に
開発中のサポートセンターを搭載して展示
シャフト両端加工機&2スピンドル2タレット旋盤『XYT-51』
複数工程を1台で、フロアスペース約80%削減を実現
2スピンドル2タレット旋盤「XYT-51」は両端加工機、センタリングマシン、旋盤などで加工していた複数工程を一台で行うことで、工程集約、フロアスペース活用、生産性向上を狙っています。現在の工程では両端加工機、マシニングセンタ、旋盤、運搬装置などで最大約31.4㎡のフロアスペースが必要でした。同機では多品種少量生産が一台で完結。フロアスペースも約6.4㎡に収まります。また全長300mmまで加工可能です。同社独自のクリッパー(特許出願中)でワークを把握し「従来工法では機械毎に累積するズレが、この一台に集約されるため精度も安定します」と話します。
第1主軸の貫通穴径を拡大したことに加え、モータ出力アップにより加工能力を向上、大径バー材などへの重切削に対応も可能となっています。もちろん一長一短あるとのことですが、多くの機械を一台に工程集約できるのは魅力的な提案です。
両端加工機を兼ねた2スピンドル2タレット旋盤「XYT-51」
中村留精密工業 省スペース設計で高性能を実現する複合CNC旋盤ラインアップ
中村留精密工業は発売1年以内の新機種、シングルタレットCNC旋盤「AS-200」、2タレット複合精密CNC旋盤「NT-Flex」、2タレット構成の高速複合精密CNC旋盤「WY-150V」などを展示していました。中村匠吾社長は「『限られたスペースを価値に変える』をテーマに出展しており、『こんな小さなスペースでここまで加工能力が高いのか』と驚かれます」と話していました。
2タレット複合精密CNC旋盤『NT-Flex』
コンパクト設計で高い加工能力
「NT-Flex」は省スペース設計を極めた2タレット複合精密CNC旋盤です。特に奥行をわずか1.38mに抑え、担当者は「バーマシン(自動盤)からの置き換えにも対応できます。奥行きが短いとこれまで5台しか入らなかった現場でももう一台置けます」とアピールしていました。
最大72本の工具を搭載可能
こうしたコンパクト設計で工場スペースに効率よく設置できるほか、上下2基の24ステーションタレットにより、最大72本の工具を搭載可能。柔軟な加工対応を実現します。
「主軸が二つあり、素材から直接掴みかえて2工程で完成品まで一夜で出来るだけでなく2つのタレットで正面と背面の2工程を同時加工します。さらに加工バランスに応じて上下のタレットを使った同時加工でタイムバランスの差も吸収してくれます、非常に生産効率の高い機械です」と自信を見せます。
5台しか入らなかった現場でももう一台、というのは具体的に想像できる大きなメリットではないでしょうか。
2タレット複合精密CNC旋盤「NT-Flex」と、同機をアピールする中村匠吾社長
シングルタレットCNC旋盤『AS-200』
コンパクトかつ複合加工のエントリーモデルに最適
「AS-200」は8インチクラスながら、横幅1.66m, 奥行1.67mの設置面積を実現した非常にコンパクトなシングルタレットCNC旋盤です。Sは「Start」の頭文字で、複合加工のスタート(導入機)としての使い勝手が考慮されています。ミーリング機能とY軸を標準搭載し、テールストックの有無も選択可能。主軸への寄り付きが良く、高い操作性と取り回しのしやすさにつながります。コンパクトサイズも相まって、老朽化更新需要にもマッチしています。
重切削の旋削にも対応
「コンパクトサイズながら機械重量は4.5tありパワフルな加工が可能です。例えば外径で切り込み4mmの重切削の旋削が出来たり、6mm幅の溝入れ加工でもビビらないです」と話します。「旋削以外でもミーリング能力も高く、外径 50mmのフェイスミルカッターで重切削を行ったり、16mmシャンクのエンドミルでY軸を使ったヘリカル加工が可能です」と自信を見せた。中村匠吾社長も、話していましたが同社は複合加工のハードルを如何に下げるか、に注力しており、それを象徴する一台です。
シングルタレットCNC旋盤「AS-200」
高速複合精密CNC旋盤『WY-150V』
独自機能クロノカットで最速加工
2タレット構成の高速複合精密CNC旋盤「WY-150V」は「Vは『Velocity』の頭文字。『最速の、その先へ。』のキャッチコピーで、アイドルタイムを削減する独自機能クロノカットのフルバージョンを実装し、アイドルタイムを短縮しています」と中村匠吾社長が語るスピード加工に特化した新技術を多数搭載。加工サイクルタイムを最大30%短縮する、同社最速モデルです。
サイクルタイムを最大30%短縮
担当者は「左側の主軸はオプションでバー能力をφ80までアップできます。太径のバー加工能力を持った機械でこれだけの省スペースを実現した機械は、なかなかほかにないです」と話します。
クロノカットは加工中のアイドルタイムを短縮するべく開発された、新しいソフトウェア・制御技術です。加工条件が変わらないため、精度に影響を及ぼすことがないので、安心して使えますね。
高速複合精密CNC旋盤「WY-150V」
松本機械工業 自動段取替システム『スマートテラスAIO』
15時間、最大8回の無人段取替
松本機械工業は自動段取替システム「スマートテラスAIO」をアピールしていました。工作機械(マシニングセンタ、旋盤、円筒研削盤など)の自動化を行うロボットシステムで「一直24時間」、夕方5時から翌朝8時までの15時間、最大8回の無人段取替を可能にします。
治具『ケレ』の自動装着を実演
会場ではジェイテクトとコラボして円筒研削盤の治具「ケレ」の自動装着を実演(自動化はケレだけに留まらない)。ロボットハンドがストッカーの引き出しを引き、ワークを掴んでケレを装着。監査装置で装着を確認して機械にセットしていました。松本晶久副社長は「ケレの自動段取替のソリューションを提供できる企業は非常に少ないです」と自信を見せます
同システムは既存機に据え付けができたり、爪自動交換HQJCシステムや最大8段のワークストッカーなどのストロングポイントがあり、多くの引き合いが寄せられているといいます。
ロボットシステム「スマートテラスAIO」
まとめ
同展示会を取材すると、「自動化」を再定義しようという潮流が見られたように思います。それが、東京や名古屋の展示会ではなく金沢で見られたのが興味深いところでした。
従来の自動化のイメージは、後追いで協働ロボットを足して、搬送を自動化して――、人の作業を代用するものだったかもしれません。工作機械の展示会なのに、ロボットの展示会の様になっていき、どこのブースも似たような提案が並び、地方の展示会はその焼き直しに見えた時期もありました。
しかし工程設計そのものを、自動化前提で再定義しようとする姿勢。それこそ真の意味での工程集約であり、日本の中小企業が世界で生き残るための道ではないでしょうか。
私たち山善は、製造業における設備導入の実績が豊富にあります。
工作機械を検討している方、自動化にお悩みの方は、ぜひ私たちにお気軽にお問い合わせください。