
設備保全のスマート化|製造業におけるエクセル管理からの脱却
製造業において設備保全部門は「縁の下の力持ち」的存在です。
生産部門が花形とされがちですが、実際には設備が故障すれば生産が止まり、経営に深刻な影響を与えます。
設備保全管理システム(CMMS)の導入は、こうした重要な業務を効率化し、組織全体の生産性向上に貢献する有効な手段といえるでしょう。
しかし、多くの企業ではまだエクセルでの管理が主流で、規模拡大とともに限界を感じているのが現状です。
では、どのタイミングでシステム化を検討すべきなのか、組織の各階層で求められる機能はどう違うのか、効果的な導入を実現するためのポイントを詳しく見ていきましょう。
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設備保全部門が直面するエクセル管理の限界
データ整合性の問題が深刻化
エクセル管理の最大の課題は、複数ファイルの整合性確保が困難になることです。
規模が小さいうちは問題ありませんが、工場が増え、管理対象設備が多くなると状況は一変します。部品のIDを間違えて入力したり、同じデータを複数の人が異なる形式で管理したりすることで、集計時にエラーが発生するケースが頻発するのです。
特に困るのは、データを壊してしまうリスクを恐れて、現場の作業員が入力を避けるようになることでしょう。「間違えて壊したら困るから、今回は入力しないでおこう」という判断が積み重なると、せっかく構築したデータベースの価値が大幅に下がってしまいます。
レポート作成の負荷が増大
設備保全部門の管理職にとって、経営層への報告は重要な業務の一つです。ところが、エクセルで散在するデータから統合レポートを作成するのは想像以上に大変な作業となります。
複数のエクセルファイルからデータを手動で統合し、整合性をチェックしながらレポートを作成する。この作業だけで相当な時間を費やすことになり、本来の設備保全業務に集中できなくなってしまうのです。
さらに個別システムを導入した場合でも、システム間の整合性を手動で取る専任者が必要になったり、IT部門にデータエクスポートを依頼したりと、かえって複雑になることも少なくありません。
組織階層別に求められるシステム機能
設備保全管理システムを検討する際、よくある誤解として「作業員が使いやすいものを選べばよい」という考えがあります。実際には、組織の各階層で求められる機能は大きく異なるのです。
作業員レベルの要求
現場の作業員にとって最も重要なのは、入力のしやすさです。
モバイル端末での簡単入力や音声入力機能があれば、作業現場でリアルタイムにデータを登録できます。複雑な操作を覚える必要がなく、直感的に使えるインターフェースが求められるでしょう。
リーダーレベルの要求
設備保全のリーダー層では、全体を俯瞰した管理機能が不可欠となります。
複数ある設備のうち、どれを優先的に保全すべきか判断するための情報が必要です。また、工場間で異なる基準で評価していると比較ができないため、ノウハウの横展開や標準化を支援する機能も重要になってきます。
管理職レベルの要求
設備保全部門の部長クラスになると、経営層への報告が主要な業務となります。
今年度の設備保全活動がどれだけ安定生産に貢献したかを数値で示し、来年度の予算確保につなげなければなりません。そのためには、データに基づいた説得力のある資料作成が欠かせないのです。
同時に、法令対応や監査対応、リスク管理といった幅広い業務もこなす必要があります。危険エリアへの立ち入り許可などをシステム上で管理できれば、安全性向上とリスク最小化を両立できるでしょう。
設備保全管理システムの核となる機能
設備台帳管理で複雑な階層構造に対応
製造現場の設備は、単純な一覧では管理しきれない複雑な階層構造を持っています。
工場の建屋があり、その中にラインがあり、ラインの中にブロックがあり、さらに個別の設備がある。こうした現実の階層構造をシステム上でも再現できることが重要です。エクセルではスラッシュ区切りで無理やり表現していたものが、システムでは自然な形で管理できるようになります。
ところで、同じ設備でも電気系統の観点と機械系統の観点では全く異なる分類になることがあります。優れた設備保全管理システムでは、同一の資産を複数の分類軸から辿ってアクセスできる機能を提供しています。
作業管理と標準化で属人化を防止
設備保全作業の品質を一定に保つには、作業標準の整備が欠かせません。
実務上よく見られるのは、作業計画と作業報告が別々のシステムや紙で管理されているケースです。これでは計画と実績が一致したかどうかの確認が困難になってしまいます。理想的には、計画から実績確認まで同一レコードで管理できることが望ましいでしょう。
作業標準には、必要な資格、使用する機材、安全要件なども含めて定義しておきます。そうすることで、作業指示書を作成する際に標準をコピーして使用でき、属人化を防げるのです。
予防保全の計画的実施でドカ停を回避
設備保全には大きく分けて予防保全と事後保全があります。予防保全は設備が正常なうちに部品交換などを行うため、まだ使える部品を廃棄するコストが発生します。しかし、計画停止で実施できるため生産への影響が少なく、標準化もしやすいというメリットがあるのです。
一方、事後保全は故障してから修理するため、突然の計画外停止が発生するリスクがあります。特に重要な設備で事後保全を続けていると、いわゆる「ドカ停」につながり、経営への影響も大きくなってしまいます。
ここで重要なのは、設備の重要度とインパクトを考慮した使い分けです。代替設備がない重要な設備については予防保全を基本とし、故障しても影響が軽微な設備は事後保全でも問題ないでしょう。
設備保全管理システムでは、時間基準や運転時間基準での自動作業指示書発行機能があると便利です。「2年に1回」や「運転時間5000時間ごと」といったルールを設定しておけば、システムが自動的に作業指示書を生成してくれます。
経営層への効果的な報告とBI活用
設備保全部門が経営層に報告する際の課題として、指標の多さと複雑さがあります。
生産部門なら「この車がこれだけ売れました」という分かりやすい成果を報告できますが、設備保全部門では設備ごと、ラインごとの細かい指標を扱うことになります。しかも、それぞれの指標が何を意味するのか、経営層には分かりにくいのが実情です。
こうした課題を解決するには、BIツールを活用したデータ分析が有効でしょう。ピボット分析機能で様々な軸を切り替えながら、経営層が理解しやすい形でデータを可視化できます。
また、予算管理機能も重要な要素です。設備の階層ごとにコストを管理し、計画予算と実績を比較できれば、「今四半期はあと何%予算が残っているか」「この作業を実施すると予算オーバーするか」といった判断がリアルタイムで行えるようになります。
システム統合による相乗効果
設備保全管理システム単体でも十分な効果が期待できますが、在庫管理や調達管理との連携により、さらに大きな価値を生み出せます。
設備が突然故障した際、必要な部品が倉庫にあるかどうかがすぐに分かれば、修理開始までの時間を大幅に短縮できるでしょう。部品がない場合は調達からスタートしなければならないため、復旧時間の見通しも立てやすくなります。
購買データとの連携も重要です。どの作業にどの部品を使用したか、どの設備にどれだけのコストがかかっているかが記録として残れば、BI分析での活用範囲が格段に広がります。
会計システムとの連携では、設備保全システムに蓄積された購買データをそのまま転送できるため、経理業務の効率化にもつながるのです。
EAM(Enterprise Asset Management)への拡張
設備保全管理システム(CMMS)のさらに外側には、EAM(Enterprise Asset Management)と呼ばれる領域があります。これは設備保全を中心としながらも、より幅広い資産管理業務を統合的に管理する考え方です。
在庫管理との連携効果
在庫管理機能が同一システムに統合されていると、設備保全業務の効率が劇的に向上します。
設備が突然故障した際の対応スピードは、部品の在庫状況把握にかかっています。必要な部品が倉庫にあるかどうかを即座に確認できれば、「今すぐ修理に取り掛かれる」「部品を買うところから始める」「部品を作るところから始める」という判断を迅速に行えます。
この判断の速さが、復旧時間の見通しを決定づけるのです。部品調達に1週間かかるなら、その間の代替手段も検討しなければなりません。逆に在庫があれば、即座に修理計画を立てられるでしょう。
実務上では、緊急時にもかかわらず「部品があるかどうか分からないので、まず倉庫に確認の電話をして…」というやり取りで貴重な時間を無駄にしているケースが少なくありません。
調達・購買管理で分析精度を向上
購買管理機能の統合は、単なる業務効率化以上の価値を生み出します。
注文書、見積もり、購買要件といった調達情報が設備保全システム内で一元管理されると、「どの作業に対してこの部品を購入したのか」「どの設備に対してこれだけのコストをかけたのか」というトレーサビリティが確実に記録されます。
このデータは、BI分析を行う際の貴重な情報源となるのです。設備別のコスト分析、部品の消費傾向分析、作業種別のコスト比較など、経営判断に必要な分析が格段に精度高く行えるようになります。
また、会計システムとの連携においても、設備保全システム側で購買データが整理されていれば、データをそのまま転送するだけで経理処理が完了します。従来のように、複数システムからデータを収集して手動で統合する手間が不要になるでしょう。
高度な保全戦略の実現
状態基準保全の実践的アプローチ
状態基準保全は理想的に聞こえますが、実際の導入には慎重な検討が必要です。
基本的な考え方は、設備の故障可能性に関するデータを収集し、それらを統合して設備ごとに100点満点でのスコアを算出することです。スコアが低下してきた設備を優先的に保全するという仕組みですが、問題は「本当に必要な設備がどの程度あるか」という点でしょう。
多くの企業では、まず従来の時間基準予防保全を確実に実施し、そのデータを蓄積することから始めるのが現実的です。状態基準保全は、重要度の高い特定設備に限定して導入を検討する方が成功確率が高いといえます。
リスク基準保全による優先順位の明確化
状態基準保全をさらに発展させたリスク基準保全では、故障リスクに加えて「重要度」という現実的な要素を組み合わせます。
重要度の判断基準として、「設備が1台しかない」「修理に時間がかかる」「高付加価値製品の生産に使用している」「停止すると利益が大幅に下がる」といった要素を考慮します。
故障リスクと重要度を二軸にしたマトリックス分析により、最も注意すべき設備を明確に特定できるのです。限られた保全リソースを「重要度が高く、かつ故障しそうな設備」に集中投入することで、全体最適化が図れるでしょう。
実務的には、このマトリックス上で「赤いエリア」に位置する設備が何台あるかを常に把握し、定期的に見直していくことが重要になります。
故障予測の現実的な課題
故障予測は最も高度な機能として注目されていますが、実現には大きな課題があります。
最大の問題は、「故障直前の挙動データを取得するには、設備を故障まで使い続ける必要がある」という矛盾です。データ収集のために意図的に故障させるわけにはいきませんし、偶然発生した故障だけでは十分なデータが蓄積できません。
現実的なアプローチとしては、メーカーが提供する耐用年数データを活用したり、故障データを販売している専門会社のサービスを利用したりする方法があります。
故障予測機能を本格的に必要とする重要設備がある場合は、システム選定時にこうした機能の有無を確認しておくとよいでしょう。ただし、多くの企業では基本的な予防保全の徹底が先決であることも付け加えておきます。
まとめ
設備保全管理システムの導入は、単なるIT化ではありません。組織全体で設備保全業務を最適化し、経営に貢献する部門へと変革するための重要なステップです。エクセル管理の限界を感じている企業は、まず現状の課題を整理し、組織階層別の要求機能を明確にすることから始めてみてはいかがでしょうか。
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