【5月度 業界トピック】AM技術の突破口とロボット切削
今月は、AM(Additive Manufacturing:積層造形)技術が工業製品の新たな突破口となる可能性や、大手メーカーによる自動化システムおよびAM技術の開発拠点刷新、そしてロボットによる鉄部品加工といった製造現場の常識を覆す技術の登場 に注目が集まりました。これらのニュースから、これからの「ものづくり」の方向性が見えてきます。
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AM EXPO東京、デザインから突破口を
AM技術、特に3Dプリンターは、これまで主に試作や特殊部品の製造に使われることが多かったかと思います。しかし、今回の展示会で示されたのは、工業製品、特にデザイン・意匠分野において、AMが新たな活路を開く可能性という点になります。従来の射出成形では金型コストやリードタイムが課題となり、デザインの多様化が難しかった一方、AMを活用することで、データを基にした個別デザインの製造が柔軟に行えるといえます。
SUBARUのコンセプトカーにおけるグリルやオーバーフェンダーへの採用事例 は、まさにその可能性を示唆しています。ユーザーの好みに合わせたセミオーダー生産 や、将来的にはユーザー自身がデザインした部品を組み込む といった、これまでのものづくりでは考えられなかった新しいビジネスモデルにも繋がるかもしれません。
また、造幣局でのマスター金型(種印)の補修 や、三菱重工業での複雑な燃焼器部品への適用など、特定用途における時間やコストの削減、複雑形状への対応といった実務的なメリットも報告されており、AMが不得意とされる工業製品分野でも、部分的な活用から突破口が開ける ということが見えてきます。
ティーケーエンジニアリングのAMノズルによる冷却・洗浄効率向上 や、ジェービーエムエンジニアリングによる既存部品への付加造形でのコスト・納期短縮 も、現場改善に直結する具体的な事例といえるでしょう。
従来の設計基準や考え方をAMに合わせて変えていく必要性も指摘されており、私たちもこの変化に対応していく必要があるでしょう。
ファナック、鉄部品までロボット切削
産業用ロボットは搬送や組み立てといった分野で広く活用されていますが、これまで金属の「切削加工」は工作機械の領域と考えられてきました。
しかし、ファナックがプライベートショーで実演した技術は、その常識を覆すものといえます。6軸機械加工ロボット「M-810/270-27B」を使用し、鉄部品(FC材)のミーリング、穴あけ、タップ加工を実現したという点は、製造現場の可能性を大きく広げる注目のトピックスです。
剛性、精度、耐反力、耐環境性を高めることで、これが世界で初めて実現した とのこと。加工精度も0.05~0.1ミリ と、バリ取りやギガキャスト部品の穴あけ など、一定の精度が求められる用途には十分に対応できるレベルに達しているといえます。
ロボット切削用の刃物の進化も含め、今後この技術がどう発展していくのか、期待が高まります。
また、今回の展示では他にも、省スペース化に貢献するスカラロボット や、食品・クリーンルーム向けのハンドリングロボット、熟練者の技術継承や危険作業の代替に繋がる高精度な遠隔操作技術 など、多岐にわたるロボット製品が紹介されました。
さらに、切削加工機「ROBODRILL」や射出成形機「ROBOSHOT」のサイクルタイム短縮、そして特に注目すべきはCNC(Computerized Numerical Control、コンピュータ数値制御)の進化です。
新しいCNC「500i-A」は、複雑な同時9軸加工を自在に制御 できるだけでなく、デジタルツインを活用して実加工の最大1000倍速で加工状態やワーク表面のスジまで予測可能 となっており、加工条件の最適化や品質予測において非常に強力なツールになることが期待できます。
これらの新技術群は、生産性向上や品質安定化といった製造業の課題解決に大きく貢献するものといえるでしょう。
DMG森精機、奈良事業所刷新
製造現場の喫緊の課題である人手不足や生産性向上に対応するため、自動化システムの構築は不可欠です。
DMG森精機が奈良事業所を世界最大級の自動化システム特化拠点として刷新したことは、この分野への投資とコミットメントの表れといえます。約2万㎡にも及ぶ広大なエリアで、パレットハンドリングシステム、ロボットシステム(IMTR、MATRIS)、大容量工具マガジン(CTS)など、多様な自動化システムを設計から組み立て、出荷前の立ち合いまでワンストップで提供できる体制は、ユーザー企業にとって大きな安心材料となるでしょう。
特に、100メートルを超えるような大型のライン構築にも対応可能 という点は、大規模な自動化を検討している企業にとって注目ポイントになります。
さらに、同時に開所したAMイノベーションセンタも重要なポイントです。ここでは、指向性エネルギー堆積(DED)方式 や選択的レーザ溶融法(SLM)方式 といった最新の金属AM機が設置されており、単なる造形だけでなく、DfAM(Design for Additive Manufacturing、積層造形のための設計)による形状最適化提案 や、積層造形の前後工程を含めた一連のプロセスを体験できる ようになっています。工作機械の内製部品にAMを活用 するなど、自社での実践を通じて培った技術を顧客にソリューションとして提供していく とのことで、自動化とAMという、これからのものづくりに欠かせない両輪を強化する動きといえます。
まとめ
今月ご紹介したニュースからは、ものづくり産業が直面する様々な課題に対し、技術の進化によってどのように対応しようとしているのかが鮮明に見えてきました。
AM技術は、これまで不得意とされてきた工業製品分野においても、デザインや補修といった特定の用途で実用化が進んでおり、設計自由度や個別対応力という強みを活かした突破口が見えてきています。
また、自動化システムやAM技術への大規模な投資 は、人手不足や生産性向上といった喫緊の課題に対し、システム全体の最適化や内製化による解決を目指すという強い意志を感じさせます。
さらに、ロボットによる金属切削加工の実現 や、CNCとデジタルツインの連携による加工予測能力の向上 などは、製造現場の可能性を広げ、より高精度で効率的な生産体制を構築するための強力なツールとなるでしょう。
これらの技術革新は、単なる個別設備の進化にとどまらず、設計から生産、そしてアフターサービスに至るまで、ものづくりのプロセス全体を変革する可能性を秘めているといえます。
「ものづくり研究所」では、こうした最新技術動向を分かりやすくお伝えし、皆様の現場改善や競争力強化に繋がる情報を提供し続けることで、共に課題解決を目指していきたいと考えています。
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