【2025.5月】中小企業新事業進出補助金を徹底解説
新たな事業展開を検討している中小企業に向けた、2025年度の注目すべき支援制度「中小企業新事業進出補助金」が先月から開始されました。
最大9,000万円という大型の補助金が受けられる可能性がありますが、採択されるためには複数の要件をクリアする必要があります。
本記事では、申請要件から補助率、対象経費、申請のポイントまで、採択を目指す企業が押さえておくべき情報を徹底解説します。特に、前身の事業再構築補助金から変更された点や、申請時によくある誤解にも触れていますので、ぜひ最後までご覧ください。
この記事の目次[非表示]
補助金の概要と特徴
中小企業新事業進出補助金とは
中小企業の新たな挑戦を後押しする「中小企業新事業進出補助金」。
この制度は、中小企業・中堅企業が新事業に進出する際の設備投資を支援するもので、50万円以上の投資に対して最大9,000万円という、かなり大きな金額が補助されます。
この補助金の最大の特徴は、新しい事業への挑戦を強く推進している点です。単なる設備更新や効率化を目的とした投資ではなく、「新事業」への挑戦が採択の大前提となります。
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他の補助金制度との違い
事業再構築補助金と比較すると、新事業要件がより厳格化・複雑化しているのが特徴的です。
また、賃金引上げ要件も強化されており、これまでは年平均2%の賃上げが求められていましたが、本補助金では2.5%に引き上げられています。
ところで、給与支給総額の考え方も変わっています。これまでの補助金では役員報酬も含まれていましたが、今回の制度では役員報酬は含まれず、従業員の給与総額の増加のみが要件となっています。この点は見落としがちなので、申請前に確認しておきましょう。
対象企業と申請条件
中小企業の定義
補助金の対象となる中小企業は業種によって定義が異なります。
製造業を例に挙げると、資本金3億円以下または従業員数300人以下の企業が該当します。
意外と知られていないのですが、従業員数が多くても資本金が少なければ中小企業として扱われることがあり、たとえば従業員数が500名いる企業でも、資本金が1,000万円程度であれば中小企業として扱われるケースが多いのです。
特定事業者とは
「特定事業者」という言葉はあまり耳慣れないかもしれません。
これは資本金10億円未満かつ従業員数が一定条件を満たす企業を指します。製造業の場合、資本金10億円未満かつ従業員数500人以下の企業が該当します。
補助金ごとに「特定事業者」の定義は異なりますので、ものづくり補助金や小規模事業者持続化補助金などで適用されていた条件をそのまま当てはめないよう注意が必要です。この新事業進出補助金では、特に資本金10億円未満という条件が設けられています。
対象外となる企業
残念ながら、いくつかのケースでは申請ができません。
たとえば見なし大企業(親会社が大企業である場合など)は対象外です。また、創業間もない企業、具体的には設立1年未満の企業や1期分以上の決算書を提出できない企業も対象外となります。
さらに、役員のみで運営している、つまり従業員数が0名の企業も対象外です。
他にも、過去の補助金事業(ものづくり補助金や事業再構築補助金など)が未完了の場合も申請できません。交付申請中、設備の納品待ち、補助金請求段階にある場合などが該当します。
申請要件の詳細解説
新事業要件
新事業要件は、この補助金の最も重要な要素です。
単なる設備更新や効率化ではなく、「新しい事業」への挑戦が評価されます。
具体的には次の3つの要件が設けられています。
製品の新規性要件
設備投資によって新たに製造・開発する製品などが、あなたの企業にとって新規性を持つものであることが求められます。つまり、これまで製造・提供したことがない製品やサービスが該当します。
ただし、「まったく新しい」という厳密な意味ではなく、あなたの会社が過去に手がけたことのない領域であるという意味合いです。
市場の新規性要件
新たに製造・開発する製品などが属する市場が、既存事業とは異なる顧客層を対象としていることが重要です。
例えば、自動車部品を製造していた企業が航空部品の製造に乗り出すような場合、提供先が大きく変わるため、市場の新規性要件を満たすと考えられます。顧客層の違いが鍵となります。
新事業売上高要件
新事業による売上高が、全体の売上高の10%以上を占める計画であることが必要です。例えば、売上高1億円の企業であれば、新事業によって1,000万円以上の売上高を生み出す計画が求められます。
この売上高はあくまで計画値であり、実際に10%に満たなかった場合でもペナルティはありません。しかし、申請時には具体的かつ説得力のある数値計画を提示することが重要です。無理に100円の製品を何万個も販売するような非現実的な計画ではなく、製品の加工賃などを考慮した、実現可能な数値計画を立てるようにしましょう。
賃金引上げ要件
補助金を受けるためには、従業員の賃金引上げが必須です。次の2つのうち、いずれかを選択して満たすことが求められます。
- 都道府県別の最低賃金の伸び率を上回ること
- 毎年2.5%以上の賃金増加を実現すること
特に注意したいのは、この給与支給総額に役員報酬が含まれなくなった点です。従業員の給与総額の増加のみが要件となります。
最低賃金要件
毎年10月に改定される都道府県別の最低賃金より、30円以上高い水準を維持することが求められます。この要件は比較的達成しやすいものですが、事業計画の中でしっかりと触れておく必要があります。
付加価値額要件
年平均4%以上の増加を見込む計画を立てることが必要です。付加価値額とは、営業利益などを用いて算出される企業の価値を表す指標です。この要件も賃金要件と同様に、計画値ではありますが、具体的な数値目標が求められます。
補助率と補助金額
補助率について
この補助金の補助率は一律で1/2です。つまり、補助対象経費の半分が補助されます。
例えば4,000万円の設備投資を行った場合、最大で2,000万円の補助金が交付される可能性があるということです。
補助金上限額
補助金の上限金額は企業規模によって異なります。従業員数20名以下の企業は2,500万円、101名以上の企業は7,000万円が上限となります。
企業規模に応じて段階的に設定されているのが特徴です。自社の従業員数を確認し、どの区分に該当するのかを事前に把握しておきましょう。
大規模賃上げによる上限引上げ
実は、大規模な賃上げを行う場合、上限金額が9,000万円にアップします。具体的には、給与支給総額を6%以上増加させ、かつ最低賃金を50円以上引き上げる計画を立てる必要があります。
例えば、101名以上の企業であれば、通常の上限は7,000万円ですが、大規模な賃上げを行うことで9,000万円まで引き上げられます。つまり、最大1.8億円の投資に対して、9,000万円の補助金が交付される可能性があるのです。これは非常に大きなインセンティブといえるでしょう。
対象経費と対象外経費
対象となる経費
建物費
建物費の対象となるのは、物流拠点の建設や既存の生産工場の改修・増築などです。ただし、注意したいのは、新事業に使用する部分のみが対象となる点です。
例えば、新しく工場を建設した場合でも、既存事業でもその建屋を使用するのであれば、新事業に使用する部分の面積に按分した費用のみが対象となります。図面などを元に正確な金額を算出することが必要です。
機械装置費
機械装置費も、新事業専用で使用する機械装置であることが前提です。
既存事業でも使用する場合は、建物費と同様に按分計算が必要となる可能性があります。
特に高額な設備投資となるこの項目は、慎重に計画を立てる必要があるでしょう。
システム構築費
新事業に必要なシステム構築費も対象となります。
ただし、これらの経費は投資の大半を占めることが前提です。
対象外となる経費
ランニングコストや車両、パソコン、スマートフォンなどの取得費用は対象外です。
これらは通常の事業運営に必要なものであり、新事業特有の投資とは考えられないためです。
検討している経費が対象になるかどうか迷った場合は、「この設備がなければ新事業が実施できないか」という基準で判断するとよいでしょう。
申請スケジュールと手続きの流れ
申請締切と採択発表
一次締め切りは2025年7月10日、採択結果の発表は10月頃を予定しています。この補助金は2年間で4回の募集が予定されており、二次締め切りは11月~12月頃になると想定されます。
申請を検討されている方は早めの準備をお勧めします。
交付申請から補助金交付までの流れ
採択された場合、交付申請の手続きが必要となります。採択された事業計画に基づき、設備投資内容の見積書と相見積書を提出し、事務局による発注許可を得るという流れになります。
この手続きには1~2ヶ月程度かかります。つまり、正式な発注が可能となるのは、早くても年末頃になる見込みです。交付申請に時間を要する場合は、2026年初旬になる可能性もあります。
正式に交付決定・発注許可を得た後、実際に発注し、設備の受け払いを行います。納品・検収・支払いが完了したら、実績報告を行い、補助金が交付されます。
重要な期限と注意点
事業完了期限は、交付決定から14ヶ月以内、もしくは採択から16ヶ月以内です。今回の採択結果発表が10月頃と想定されるため、事業の実施期限・納品期限は2027年4月となります。
実務上特に注意したいのは、「納期厳守」の重要性です。以前は材料不足などによる納期の遅延が認められるケースもありましたが、現在では納期遅延が認められないことがほとんどです。戦争やパンデミックなど、世界規模の未曽有の事態が発生した場合のみ、期間延長が認められる可能性がありますが、メーカー都合や納品都合による遅延は認められません。
採択されやすい申請と採択されにくい申請
採択されやすい新事業の特徴
採択されやすい申請の特徴は、「真に新しい事業への挑戦」が明確であることです。
具体的な事例を挙げましょう。例えば、ATM筐体の板金加工を行っていた企業が、風力発電用蓄電池の筐体製造事業に参入するケース。市場がコンビニATMから風力発電用蓄電池へと変化し、全く異なる市場への参入となります。製品は筐体という点では同じですが、製造実績がなく、新たな設備投資が必要となるため、新事業要件に合致すると考えられます。
別の例では、自動車ブレーキホースの金型製造を行っていた企業が、車載センサー用アルミケース製造事業に参入するケース。製品がブレーキホースからアルミケースへと大きく変化しています。市場も自動車業界という点では同じですが、想定される顧客が全く異なるため、新事業要件に合致する可能性が高いです。
採択率を下げる要因
反対に、採択されにくい申請の特徴としては、次のようなものが挙げられます。
- 製造方法があまり変わらない
- 既存製品と性能差がない
- ワークのサイズが変わるだけ
また、公募要領には「減点される可能性のある事業」として、以下のような項目が挙げられています。
- 容易に製造可能な製品:既存設備で簡単に製造できる製品
- 容易な改変:ワークのサイズ変更や加工精度の微調整など
- 単なる組み合わせ:既存の部品を組み合わせるだけで製造可能な製品
これらの項目は、前身の事業再構築補助金にはなかったものです。補助金制度としても、「本当に新しい事業」を支援したいという方向性が強まっていることがわかります。
新事業要件を満たす具体例
では、どのようなアプローチが効果的なのでしょうか。
まず、市場の変化を明確に示すことが重要です。例えば、「これまでは自動車部品メーカーが主な取引先だったが、今回は航空機部品メーカーを対象とする」というように、顧客層の変化を具体的に説明します。
次に、製品の新規性を強調します。「従来品とは形状・機能・材料が大きく異なり、新たな製造技術や設備が必要」といった点を詳細に示すことが効果的です。
最後に、投資の必然性を説明します。「この新事業を実施するためには、この設備投資が不可欠である」という点を、技術的な観点から具体的に説明することが重要です。
よくある質問と誤解
建物費・機械装置費の按分について
「新しく工場を建てたのだから、全額が補助対象になるのでは?」という誤解がよくあります。
しかし、新事業に使用する部分のみが対象であり、既存事業でも使用する場合は面積按分などが必要です。
按分の際は、図面等を元に新事業専用スペースを明確にし、その比率で経費を計算します。
例えば、1,000㎡の工場のうち300㎡を新事業に使用する場合、建物費全体の30%のみが補助対象となります。
納期遅延の扱いについて
「部品の供給遅延があった場合、期限を延長してもらえるのでは?」という質問もよくあります。
しかし、現在の制度では、メーカー都合や納品都合による遅延は基本的に認められません。
事業完了期限は必ず守る必要があり、期限を過ぎると補助金が交付されないリスクがあります。
そのため、余裕をもったスケジュール設計と、納入業者との綿密な打ち合わせが不可欠です。
過去の補助金事業との関係
過去に補助金事業に採択された企業は、毎年の報告状況も審査対象となります。
特に、過去の事業の進捗状況が1~3段階目(事業が軌道に乗っていない状態)の場合、減点対象となる可能性があります。
つまり、過去に申請した補助金事業が順調に推移し、利益も出ている企業でないと、今回の申請で不利になる可能性があるのです。これは、これまでの補助金制度にはなかった減点措置といえます。
まとめ
最後に、申請準備のチェックポイントをまとめておきます。
- 新事業要件(製品の新規性、市場の新規性、売上高要件)を満たしているか
- 賃金引上げ要件(2.5%以上)の計画は具体的か
- 最低賃金要件(+30円以上)を維持できる計画か
- 付加価値額の増加(4%以上)は実現可能か
- 建物費・機械装置費の按分計算は適切か
- 納期遅延リスクへの対策は万全か
- 過去の補助金事業が未完了でないか、また順調に進捗しているか
中小企業新事業進出補助金は、本気で新事業に挑戦する企業を強力に後押しする制度です。最大9,000万円という大きな補助金ですので、要件をしっかり理解し、戦略的な申請を行うことが重要です。
私たち山善は、製造業における補助金の申請支援の実績が豊富にあります。
補助金を活用したい方、申請手続きにお悩みの方は、ぜひ私たちにお気軽にお問い合わせください。