
【2025.10月】省力化投資補助金(一般型)とは?対象設備・賃上げ要件・採択率を解説
人手不足が深刻化する製造業や物流業にとって、省力化投資は喫緊の課題です。
2025年から新設された「省力化投資補助金(一般型)」は、最大1億円の補助で省力化につながる設備やシステムを導入できる制度として注目を集めています。
本記事では、対象となる設備の条件、必須となる賃上げ要件、そして採択されやすいポイントを、実際の採択データとともに詳しく解説します。
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省力化投資補助金(一般型)の制度概要
省力化投資補助金には「カタログ型」と「一般型」の2つの枠があります。
カタログ型が事前登録された製品を導入する制度であるのに対し、
一般型は事業者ごとにカスタマイズされた設備投資を対象とする点が大きな違いです。
対象事業者は中堅企業まで拡大
個人事業主や中小企業に加え、この補助金では中堅企業も申請できます。
具体的には、資本金10億円以下かつ従業員数500人以下の企業が該当します。
大企業ではないものの中小企業の規模を超えている事業者にとって、選択肢が広がる制度といえるでしょう。
ただし、いわゆる「みなし大企業」(大企業の子会社など)は引き続き対象外となりますので注意が必要です。
対象となる設備|「オーダーメイド」の定義とは
この補助金で最も重要なのが、オーダーメイド性という要件です。
では、どのような投資が「オーダーメイド」として認められるのでしょうか。
ロボットシステムやICT機器の組み合わせ
代表的なのは、ICT機器、AI、ロボットを組み合わせた設備です。
外部のシステムインテグレーター(SIer)と連携して構築するロボットシステムなどが、まさにこの補助金が想定している投資モデルといえます。
省力化が目的ですから、自動化を実現する大規模なロボット導入が最も分かりやすい例になります。
汎用製品の組み合わせも対象になる
ここで重要なのは、完全なオーダーメイド品でなくても対象になり得るという点です。
実は公募要領には、「汎用製品の組み合わせであっても補助金の対象となる」という記載があります。
つまり、単体のパッケージ製品を導入するのではなく、複数のパッケージ製品を組み合わせることで、自社独自の課題を解決し省力化につながる投資であれば対象となる可能性があるのです。
こんな投資が対象になる
具体例を挙げましょう。
- 複合加工機の導入:
従来は複数の工作機械でワークを移動させながら加工していた工程を、1台の複合加工機に集約 - 工作機械+周辺機器:
工作機械本体に、タッチプローブや円テーブルなどのオプション、さらに搬送装置を組み合わせたシステム - 三次元測定機+解析ソフト:
測定機とソフトウェアを組み合わせ、人による測定作業を自動化 - 業務システム:
顧客管理や在庫管理を紙ベースから脱却し、デジタル化するシステム
少量多品種生産を行う中小企業の場合、大型ロボット導入は現実的でないケースも多いでしょう。
しかし、汎用製品の組み合わせでも対象になるという点は、申請を検討する上で大きなポイントになります。
申請の必須要件|賃上げ計画の詳細
補助金を受け取った場合、将来にわたって賃上げを実施する義務が発生します。
国が賃上げを強く求めているため、この要件は必ず達成しなければなりません。
給与支給総額を年平均成長率2%以上増加
役員報酬や残業代などの手当も含めた給与支給総額を、年平均成長率2%以上増加させる必要があります。
これを最低3年間継続するため、3年間で合計6%以上の増額が求められます。
ここで注意したいのは、これはあくまで「総額」での計算だという点です。
従業員数が増えたことによる増加も含まれますので、基本給を必ず2%上げるというわけではありません。
会社全体で支払う給与の総額を2%以上増やすというイメージになります。
また、3年後に最終的な目標が達成できていれば問題ありませんので、毎年2%ずつ増やす方法のほか、最終年度に一気に6%増額するという形でも要件を満たせます。
最低賃金+30円以上の維持
各都道府県で定められている最低賃金が2025年10月から上昇しましたが、その改定後の最低賃金にプラス30円以上の額を、自社の最低賃金として維持する必要があります。
例えば東京であれば、改定後の最低賃金1,226円 に30円を上乗せした金額を維持することが求められます。
技能実習生など特別な雇用形態により最低賃金を基準額ちょうどに設定しているケースでは、この「プラス30円」の要件を満たせるかが申請可否の分かれ目になります。
給与支給総額に含まれる項目・含まれない項目
計算の対象となるのは以下の項目です。
対象となる項目
- 基本給などの給料・賃金
- 役員報酬
- 賞与(ボーナス)
- 残業代や休日出勤手当といった各種手当
対象外の項目
- 福利厚生費(法定福利費を含む)
- 退職金
どの勘定科目を基に算出するかは、決算書の内容を確認しながら慎重に判断する必要があります。
要件未達時の返還ルール
3年後の目標を達成できなかった場合、補助金の返還義務が発生します。
ただし、未達だったからといって、その場で全額返還を求められるわけではありません。
未達率に応じた返還:目標に対する達成度合いに応じて返還額が決まります。例えば、目標100に対して達成度が50だった場合、補助金の半分を返還する形になります。
返還が免除されるケース:賃上げをしたかったものの付加価値額が増加していない(会社として利益が出ていない) 場合や、天災や社会情勢の悪化など事業継続自体が困難な状況であった場合は、補助金の返還は求められません。
したがって、会社が順調に推移し利益が出ている場合は年平均成長率 2%を目安に賃上げをする必要がありますが、特別な事情がある場合はそれを基に判断されるため、比較的解釈の幅が持てるといえるでしょう。
重要なのは、過去に賃上げをしていたかどうかは一切関係ないという点です。
あくまで補助金を受け取った場合に将来の賃上げ義務が発生します。
補助金額と補助率の計算方法
従業員数別の補助上限額
補助金の上限額は、雇用している従業員の人数によって定められています。
- 101人以上:8,000万円(1億円)
- 51~100人:5,000万円(6,500万円)、
- 21~50人:3,000万円(4,000万円)、
- 6~20人:1,500万円(2,000万円)、
- 5人以下:750万円(1,000円)
括弧内に記載された金額は、より高い水準の賃上げ(年平均成長率6%以上、かつ最低賃金プラス50円以上)を実施する場合の上限額です。
最大1億円まで申請可能になりますが、3年間で18%以上の給与支給総額増額が必要になるため、賃上げの負担も大きくなります。
リスクとリターンを慎重に検討する必要があるでしょう。
投資額に応じた補助率
小規模事業者(製造業・その他では従業員20人以下)の場合、補助率は2/3です。
従業員20人以下の会社であれば、補助上限額は基本的に1,500万円となり、約2,400万円未満の投資で満額申請が可能になります。
それ以外の事業者は、投資額に応じて補助率が変動します。
- 投資額3,000万円まで:1/2
- 3,000万円を超える部分:1/3
計算例:6,000万円投資の場合
例えば6,000万円の投資を行う場合、以下のように計算します。
- 3,000万円 × 1/2 = 1,500万円
- 残りの3,000万円 × 1/3 = 1,000万円
- 合計:2,500万円の補助金が申請可能
投資金額が上がるほど、全体の補助率は1/3に近づく設計になっています。
対象経費と対象外経費

必須経費は機械装置費・システム構築費
工作機械やFA機器などの機械装置、またはそれを動かすためのシステム構築費用が必須となります。
社内の業務システム構築なども対象です。
この必須経費に関連する経費として、5つの項目が補助対象となりますが、基本的には上記の機械装置・システム構築費に関連する経費である必要があります。
例えば、既存設備の撤去費用や建物の増改築費用は基本的に対象外となります。
汎用品やランニングコストは対象外
補助金制度全般に共通しますが、以下は対象外です。
- 社内の人件費
- ランニングコスト
- 土地・車両の購入費
- 株式の取得費用
- パソコンやスマートフォンなどの汎用品
見積もりの中でどこが対象となり、どこが対象外となるか、その上で補助金額がいくらまで見込めるかを精査する必要があります。
採択されやすいポイント|実績データから見る傾向
実際の採択実績を分析すると、いくつかの傾向が見えてきます。
採択率のデータ
全国平均の採択率は約60%です。一方、申請支援を専門とする事業者の支援案件では80%の採択率を記録しています。
この差は、申請書の質や投資内容の選定が採択に大きく影響することを示しています。
投資内容別の採択状況を見ると、非常に興味深い傾向があります。
- オーダーメイド装置(搬送、検査、溶接など):現状100%採択
- 汎用製品の組み合わせ(工作機械+α):高い確率で採択
- サービス業(顧客管理システム、測量用ドローンなど):現状100%採択
- 工作機械単体:採択率50%(母数が少ないため断定はできない)
この結果から、完全なオーダーメイド装置や、明確な省力化効果が見込める投資は非常に高い確率で採択されていることが分かります。
「人→機械」への置き換えを重視
採択のポイントとして特に重要なのは、機械の性能向上による生産スピードアップよりも、これまで人が行っていたアナログな作業を機械に置き換えることが重視されるという点です。
例えば、人が行っていた搬送作業や目視での検査工程などを自動化する投資が、本補助金の趣旨に合致します。
既存の機械を最新機種に入れ替えるだけでは、この要件を満たしにくいのです。
省力化効果の「見える化」が鍵
計画書の中で、人件費がどれだけ削減できるかを定量的に示す必要があります。
「今、何人が何分かけて作業しているか」「その作業者の時給はいくらか」といった具体的な数値を基に削減効果を算出します。
例えば、「3名が1日30分の搬送作業を行っており、時給1,500円として計算すると...」というように、明確な数字で示すことが求められます。
「大変だった」「効率化できる」という定性的な表現ではなく、具体的な数字で示すことが採択の鍵となるのです。
ここで注意したいのは、現場でのアナログ作業を正確に把握できていないケースが多いという点です。
実際にどれだけの時間がかかっているのか、何人が関わっているのかを改めて確認する必要があります。
費用対効果の高さも評価される
投資額に対して省力化効果が高いこともポイントです。
できるだけフルパッケージでオプションを充実させ、省力化効果の高い規模の大きな投資が評価される傾向にあります。
採択事例|どんな投資が認められているか
複合加工機による工程集約
課題:1つの製品を作るために複数の工作機械を通す必要があり、ワークの脱着や搬送、位置決めに手間がかかっていた。
解決策:複合加工機を1台導入することで、一度のワーク設置で全ての加工が完結。
大幅な省力化を実現し採択された。
三次元測定機による測定自動化
課題:大型ワークの測定をマニュアルで行っており、時間と人員を要していた。
また、人による測定のため品質にばらつきが生じていた。
解決策:最新式の三次元測定機と解析ソフトウェアを導入。
人による作業をなくし、品質の安定化と省力化を両立させ採択された。
顧客管理システムによる業務デジタル化
課題:自動車教習所において、予約管理や生徒管理を紙ベースで行っていた。
解決策:システムを導入し業務をデジタル化・自動化。
業務効率の大幅な改善と省力化が評価され採択された。
これらの事例に共通するのは、「人の作業を機械やシステムに置き換えている」という明確な省力化効果です。
申請スケジュールと手続きの流れ

4次公募は11月下旬締切
今回の4次公募は11月下旬が申請締切の予定です。
採択発表は約3〜4ヶ月後の2026年2月〜3月頃となります。
採択から事業完了まで20ヶ月
採択後のスケジュールは以下の通りです。
1.交付申請:採択後、正式な見積書と価格の妥当性を示すための相見積書を事務局に提出
2.交付決定・事業開始:交付申請が認められると「交付決定」となり、正式な発注や事業の実施が可能に
3. 事業完了:設備の納品、検収、支払いを完了
4.実績報告・補助金受給:事業完了後、実績報告を行い補助金が支払われる
事業期間は採択から20ヶ月以内と定められています。
20ヶ月あれば、大型の設備導入や大規模なプロジェクトでも納期内に収まる可能性が高いため、大型投資にも活用しやすい制度といえます。
申請時は見積書不要、採択後に相見積もり
実は申請時点では見積書は不要です。
「何を」「どこから」「いくらで」購入するかを文章で記載すれば申請できます。
採択後に正式な見積書と相見積書を提出する流れになります。相見積もりが省略できるのは、商流の縛りがあり特定の代理店しか取り扱えない場合や、完全なフルオーダーメイド品で他に比較対象がない場合などに限られます。その際は「業者選定理由書」を提出し、相見積もりが取得できない理由を説明する必要があります。
ただし、この理由書が認められるハードルは高いため、可能な限り相見積もりを用意することが推奨されます。
まとめ|省力化投資で最大1億円の補助を活用しよう
省力化投資補助金(一般型)は、人手不足に悩む事業者にとって大きな支援となる制度です。
特に重要なポイントをまとめます。
オーダーメイド性:汎用製品の組み合わせでも対象になり得る
- 賃上げ要件:給与支給総額を年2%以上、最低賃金+30円以上が必須
- 採択のポイント:人の作業を機械に置き換える明確な省力化効果を数値で示す
- 補助上限額:最大1億円(高水準賃上げ時)、従業員数により変動
- 事業期間:採択から20ヶ月以内で大型投資にも対応可能
申請にあたっては、自社の設備投資がオーダーメイド性を満たすか、省力化効果を具体的な数値で示せるかが重要です。
現在具体的な投資を検討中の場合は、早めに申請準備を進めることをお勧めします。
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