
東京都『躍進的な事業推進のための設備投資支援事業』の採択結果から学ぶ | 製造業の事例2選と中小企業診断士が教える採択の理由
躍進的な事業推進のための設備投資支援事業は、東京都内に拠点を持つ中小企業が、設備やシステムへの投資を行う際に活用できる、1億円規模の補助金制度です。
実際に採択された企業が「どのような設備導入」を行い、「どのような計画」が評価されたのか。
数百件の補助金申請を支援してきた中小企業診断士が、現場での支援経験と採択結果から、採択されるためのコツを解説します。
この記事の目次[非表示]
躍進的な事業推進のための設備投資支援事業の採択傾向
早速、躍進的な事業推進のための設備投資支援事業の採択結果から、傾向について整理していきます。
採択結果は9次締切以降、一般に公開されていないため、確認できる最新の8次締切の結果を分析しました。
当社では9次締切、10次締切の支援も行っていますが、大きなトレンドの変更は確認していないため、8次締切時点から大きく変わらない現状にあると思われます。
採択企業の業種構成
8次締切では製造業を中心に計134社が採択されました。業種や企業規模などの詳細データは公表されていませんが、筆者が採択事例の取組内容を分析し、業種ごとの傾向を独自に評価しました。
採択企業の業種分析が次のとおりです。採択企業の中で最も多かったのは製造業です。全体の約87%を占め、圧倒的な結果となりました。
2番目に多かったサービス業では動物病院や番組制作スタジオなどが複数採択されていましたが、圧倒的に製造業が多く、製造業優遇の補助金であることが確認できる結果となりました。

大分類 | 割合 |
製造業 | 87.3% |
サービス業(他に分類されないもの) | 9.7% |
医療,福祉 | 2.2% |
建設業 | 0.8% |
(第8回採択結果から、筆者作成)
製造業の採択傾向
製造業の採択結果をさらに詳しく見てみると、幅広い分野の取組が採択されていることが分かります。
最も多かったのは、高精度な加工を目指す取組です。5軸MCによる複雑形状部品への対応力強化、三次元測定機による品質保証体制の構築など、自社の技術力を一段引き上げるための設備投資が目立ちます。
実際に採択されている事業計画名 |
同時5軸制御加工を中心とする先端技術導入による半導体製造装置部品の供給能力強化 |
超高精度三次元測定機を導入し、高精度を担保し、効率と加工精度の向上で競争力強化 |
高度なエッチング加工技術を活かした、高精度フィルター等の精密穴あけ加工体制構築 |
新規5軸加工NCルーター・CADCAM導入による高精度3次元曲面加工ラインの構築 |
大径・複雑形状の特殊鋼締結部品の製造技術確立による競争力強化 |
同様に目立つのが、半導体関連市場への対応を打ち出した事業です。半導体製造装置部品の増産体制構築や供給能力強化をテーマとした取組が10社程度確認でき、半導体市場の需要拡大を背景に、部品サプライヤーとしての参入・供給体制強化を目指す企業が多く採択されています。
実際に採択されている事業計画名 |
半導体製造装置部品の新規ニーズを実現する一貫生産体制の構築 |
最先端工作機械による、高精度医療機器部品・半導体装置部品の生産体制強化 |
半導体製造装置に必要不可欠なベベルギアの量産体制確立による生産性向上 |
残留応力除去と高速・高精度レベリングで半導体市場の需要に対応できる生産体制を構築 |
このような、トレンド感のある投資が採択されやすいのも補助金の特徴といえます。
全体の採択率
躍進的な事業推進のための設備投資支援事業では、採択率が公表されていないため、全体でどの程度採択されているのかは現状不明です。
当社の経験や他の専門家等の意見から、全体の採択率が3割程度、製造業の場合は6割程度の採択率なのではないかと想定しております。
採択事例から学ぶ“採択されるストーリー”
躍進的な事業推進のための設備投資支援事業の採択傾向を抑えたところで、次に筆者の支援実績から「実際どのような事業計画が採択されているのか」を紹介します。
実際の採択事例を見てみると、評価されやすい計画には共通した流れがあり、それを踏まえて申請することが、採択への近道となります。
事例①【金属製品製造業】:CNC三次元測定機導入による産業用ロボット部品領域への挑戦
導入設備 | 東京精密 CNC三次元測定機 ZEISS MICURA |
補助金額 | 約3,300万円 |
従業員数 | 21人~50人 |
業種 | 金属製品製造業 |
最初にご紹介する事例は、最新のCNC三次元測定機「ZEISS MICURA」を導入し、成長が見込まれる産業用ロボットの複雑な部品製造への挑戦を計画した企業のケースです。
この企業は、もともと工作機械の部品など、高い精度が要求される部品の製造を強みとしていましたが、産業用ロボットに用いる特殊な歯車の引き合いがあった際には、自社で検査をすることができなかったため断ってしまっていました。
同社はこの経験をきっかけに、検査体制を整備することで、より高品質で高付加価値な部品が製造できるようにすることが急務と認識していました。
そこで事業計画では、「ZEISS MICURA」を導入することで、自由曲面や複雑な形状の測定を可能にするとともに、三次元測定機の扱いに慣れていない人でも測定ができるようにすることで、生産量も増加させるという「質の向上」と「生産能力の拡大」の両方を目指す構成としました。
この計画は、実際にあった引き合いを例にして自社の課題を明らかにした上で、三次元測定機の導入という打ち手によって、補助金で目的とされている「質の向上」と「生産能力の拡大」の両方を実現する取組となったため、審査員としても採択しやすい計画になったと思われます。
具体的なエピソードを述べることで、今までできなかったことが設備面の課題解決によってできるようになる、というストーリーは躍進的な事業推進のための設備投資支援事業の典型的な勝ちパターンであるといえます。
事例②【金属製品製造業】:CNC旋盤の新規導入による生産能力の拡大
導入設備 | ヤマザキマザック CNC旋盤 QTE |
補助金額 | 約1,500万円 |
従業員数 | 21~50人 |
業種 | 金属製品製造業 |
次にご紹介する事例は、ヤマザキマザックのCNC旋盤QTEを導入した事例です。国の補助金では取組の新規性を求められることが多く、CNC旋盤を導入するだけの計画では採択されないケースも多いですが、本補助金は生産能力の拡大も補助対象なので、CNC旋盤など比較的広く導入されている設備でも十分に採択が狙えます。
この事例の企業は、油圧シリンダ部品の製造に強みを持っていましたが、最近は安価で大量生産ができる海外企業と競合することが多く、コストを重視する顧客が海外に流れてしまう現状を変えたいと考えていました。
自社の高コストの原因は売上原価の約半分を占める高すぎる外注費であり、内製化率を高めることを喫緊の課題と認識していました。
事業計画では、自社の弱みとして、旋盤自体の台数が不足していること、既存旋盤はワンチャックでできる加工に限りがあることを挙げ、この課題を解決するために、自社の製造課題にあわせて刃物台や主軸の仕様等を調整しやすく、切削能力が高いCNC旋盤の導入が必要であると説明しました。
この計画のポイントは、生産能力の拡大が、単に売上がその分増えるというシンプルな課題ではなく、安価で大量生産可能な海外サプライヤーと戦う上で、解決必須な経営課題であるとした点です。
補助金の制度上、生産能力の拡大は品質の向上と比べるとどうしても低く評価されがちですが、その重要性をきちんと説明することで、十分に採択が狙えるといえます。
補助金の目的と自社の経営課題の解決がリンクするストーリーが重要
今回紹介した2つの事例は、補助金の目的である「質の向上」や「生産能力の拡大」が自社の経営上重要度の高い課題であることを具体的な例とともに説明している点に特徴があります。
加工の質が上がることで、自社の経営がどう変わるのか、生産能力が増えると自社はどのような優位性を構築できるのか、補助金の目的と自社の経営課題がリンクしていることがこの補助金で採択されるために最も重要です。
躍進的な事業推進のための設備投資支援事業に採択されるためには投資による課題解決が自社にとって重要であり、補助金の目的とも一致していることが審査員に伝わる必要があります。
「自社がなぜ今この設備投資をするのか」「その設備投資による質的・量的な改善で自社の経営はどう変わるのか」という問いに正面から答えた計画を作成することが重要です。
ぜひ、事例を参考に、自社であればどのような設備投資が補助金の対象になりそうかを考えてみてください。
躍進的な事業推進のための設備投資支援事業とは
躍進的な事業推進のための設備投資支援事業の目的と概要
ここで改めて、躍進的な事業推進のための設備投資支援事業の概要を見ていきます。この補助金は、都内に本社や支店がある中小企業の「製品・サービスの質的向上」や、「生産能力の拡大」のために必要な機械設備・ソフトウェア投資を支援する制度です。特に製造業においては、工作機械や検査装置、ロボットなどの導入に使用されています。

対象となる設備
躍進的な事業推進のための設備投資支援事業で補助対象となる設備は、製品の品質向上や生産能力の拡大につながる機械装置やソフトウェアです。難削材の高精度加工、自由曲面の迅速測定、ロボットを用いた自動化など、かなり幅広い設備投資が対象になります。
補助金額
躍進的な事業推進のための設備投資支援事業の補助率と補助金額は事業区分や企業規模、コースによって異なります。多くの製造業が検討しやすい「競争力強化」では、補助額100万円~1億円、補助率は通常で1/2~2/3、賃上げやゼロエミを満たす場合は3/4~4/5まで引き上がる設計です。
【補助金額まとめ ※競争力強化の取組の場合】
会社規模 | 補助率 | 補助上限額 | ||
通常コース | ゼロエミコース | 賃上げコース | ||
従業員数21名以上 | 1/2 | 3/4 | 3/4 | 一律1億円 |
従業員数20名以下 | 2/3 | 3/4 | 4/5 | 一律1億円 |
※実際の補助金額は賃上げの実施具合、申請する事業区分などによって変わります。
詳しくは公式HPをご確認ください。
申請できる企業、申請するための条件
躍進的な事業推進のための設備投資支援事業を申請できるのは、「東京都内に登記簿上の本店または支店があり、都内で2年以上継続して事業を行っている」中小企業です。
設備を導入する場所(事業実施場所)は本店が東京都内の場合は「東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、群馬県、栃木県、茨城県、山梨県」のいずれか、都内には支店しかない場合は「東京都」に限定されます。
【本店・支店所在地と事業実施可能場所】
東京都に本店がある | 東京都に支店がある | 東京都に本店も支店もない |
東京都、神奈川県、埼玉県、 | 東京都 のみ | 申請不可 |
躍進的な事業推進のための設備投資支援事業の採択のポイント
最後に、躍進的な事業推進のための設備投資支援事業で採択されるためのポイントとして、審査項目とよくある不採択要因を解説します。前述の補助金の目的と自社経営課題のリンクとともに、審査項目を満たしているかどうかも意識することで採択率がぐっと高くなります。
審査員が重視する3つの視点
躍進的な事業推進のための設備投資支援事業の審査は、公募要領で定められた細かな審査項目に基づいて評価されます。しかし、経営者や現場の担当者が申請内容を整理するうえでは、これらの複雑な基準を“3つの視点”にまとめて理解すると格段に進めやすくなります。
その3つの視点とは、
- 補助金の目的に合った取組となっているか
- 事業計画が優秀なものであるか
- 事業計画が実現可能なものであるか
というものです。
申請を検討している方は、これから詳しく説明する各視点が自社の取組に当てはまるかを意識して事業計画の方向性を固めていくと、採択される計画づくりに大きく近づきます。
① 補助金の目的に合った取組となっているか
どの補助金でもいえることですが、「その取組が補助金の目的に合っているかどうか」が補助金の審査上最も重要な観点です。
本制度の目的は、製品・サービスの質的向上と生産能力の拡大です。そのため、導入設備によって「製品の品質がどう上がるのか」「生産量がどう増えるのか」を具体的に示すことが不可欠です。
この点、他の補助金でよくあるように「今までとは異なる取組である」という主張では不十分である点に注意してください。
製造業の場合、基本的には品質を向上させるためか、生産量を増やすために設備投資をすると思うので、導入目的を自社の経営課題とともにわかりやすく説明すれば目的に合った取組であると伝わりやすいのも、この補助金が圧倒的に製造業での採択件数が多い理由と思われます。
② 事業計画が優秀なものか
2つ目の視点は優秀性、すなわち「なぜこの事業で利益が上がるのか」「なぜ顧客はあなたに発注するのか」という問いに答えられるかどうかです。
この視点を満たすためには、導入する設備によって、競合他社と比べてどのような優位性を持つのかを具体的に説明する必要があります。
例えば、「地域に板金加工に強みをもつ工場は当社を含めて3件あるが、他の企業では未だにファイバーレーザー加工機の導入を進めていない。ファイバーレーザー加工機を導入することで高反射材の精密加工については地域で当社のみが対応できるという状況を作り出せる」など、簡潔に優秀性を訴求できると高い得点が得られると考えられます。
③ 事業計画が実現可能なものであるか
3つ目の視点は、計画の実現可能性です。優れた計画であっても「本当に実行できるのか」が伴っていなければ採択は期待できません。
具体的には、導入する設備を活用してつくる製品にニーズがあるのか(市場性)、必要な技術力や人員体制が整っているのか(実施体制)、技術的に実現可能なのか(技術的裏付け)、そして投資計画に無理はないのか(財務的妥当性)といった点を多角的に説明する必要があります。
特に製造業では、顧客がそれを求めているのか、設備を使いこなすことができるのか、という市場性や実施体制、技術的裏付けの観点を特に見られる傾向が高いと思います。
不採択を防ぐための注意点
補助金申請では、事業内容そのものが優れていても、申請書類の不備によって不採択となるケースが少なくありません。
躍進的な事業推進のための設備投資支援事業の場合、申請時点で見積書と相見積書が必要になるなど、国の補助金と比較しても必要な申請書類が多いことから特に気をつけたいところです。
また、内容面での見せ方も軽視できません。良い計画であっても、文章が読みづらい、構成が分かりづらい、図表が適切に使われていないといった理由で、本来の計画の優秀性が審査員に伝わりにくくなってしまいます。審査員は限られた時間で多数の申請書を確認するため、一目で何をするのかがわかりやすく整理された計画書の方が、内容が正しく伝わり評価されやすくなります。
国や自治体に対して提出する事業計画書を書き慣れていない場合や、客観的なチェックが必要だと感じる場合は、専門家のレビューを受けるだけでも精度は大きく向上します。
基本的なミスの防止はもちろん、伝わりやすい構成や表現への調整など、自社だけでは気づきづらい改善点を補うことができます。
FAQ
採択率はどれくらいですか。
躍進的な事業推進のための設備投資支援事業の採択率は公表されていないため、正確な数値は不明です。他の補助金の採択率や当社がこれまでに支援した経験や、他の専門家との意見交換では、およそ30%前後ではないかと考えています。なお、製造業については、全体平均よりも採択率が高く、6割程度ではないかと考えています。
他の補助金との併用はできますか。
同じ設備・同じ経費に対する重複受給は補助対象外ですが、過去に別の補助金を活用した企業でも、今回の対象経費や事業内容が異なれば申請が可能です。実際には制度ごとの重複制限を個別確認する必要があるため、事務局か専門家に確認することをおすすめします。
既に保有している設備と同じ種類の設備でも申請できますか。
既に同様の設備を保有している場合であっても、補助対象となる可能性はあります。ただし、「なぜ既存機では足りないのか」「新設備を何のために導入するのか」を明確に説明する必要があります。単なる買い替えに見えると弱くなるため、精度・能力・対応範囲の違いを具体的に示すことが重要です。
面接審査では何を聞かれますか。
一般に、なぜその設備が必要なのか、導入後に何が変わるのか、売上や生産性への効果はどこにあるのか、賃上げの特例を用いる場合は、賃上げをどのようにして実現するつもりなのか。といった基本論点が確認されます。書類に書いたことを現場目線で矛盾なく説明できるよう準備しておくことが大切です。
また、審査員は必ずしも製造業の専門家とは限りません。非専門家であっても分かりやすい記載を求められるのはもちろんですが、面接においても基本的な製造業の知識についての質問が来ることも多くあります。
補助金を活用したい方、申請手続きにお悩みの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
<会社概要>
企業名 : 株式会社プランベース
事業内容 : 補助金申請支援サービス 他
本社住所 : 東京都千代田区岩本町2丁目8-8 ザポータル岩本町6F
URL : https://planbase.co.jp/




