カーボンニュートラルの課題|中小製造業がつまずく5つの壁と越え方

カーボンニュートラルの課題|中小製造業がつまずく5つの壁と越え方

  • 取引先から「CO2の排出量を教えてほしい」という書類が回ってきた。
  • 省エネはやったほうがいいと分かっているが、何から手をつければいいのか分からない。
  • カーボンニュートラルの課題に対する担当者が決まらないまま、電気料金や課題に対する負担だけが重くなっていく。

そんな状況になっていないでしょうか。

本記事では、中小製造業がカーボンニュートラル対応を始めるときにぶつかりやすい課題を5つに整理します。そのうえで、まず自社で取り組みやすいエネルギー使用量の把握とCO2削減を起点に、4つのステップで進め方を紹介します。

この記事の目次[非表示]

  1. ・カーボンニュートラルとは?いま製造業に求められていること
    1. ・脱炭素・カーボンニュートラル・GXの違いを整理する
    2. ・中小製造業には「取引先経由」で要求が降りてくる
  2. ・中小製造業がぶつかるカーボンニュートラルの5つの課題
    1. ・壁1.何から手をつければいいか分からない
    2. ・壁2.コストが読めず、投資に踏み切れない
    3. ・壁3.専任者がいない・知識が追いつかない
    4. ・壁4.取引先から「CO2排出量を出してほしい」と言われても答えられない
    5. ・壁5.取り組んでも効果が測れず、続かない
  3. ・カーボンニュートラル対応、まずはCO2削減から始める4ステップ
    1. ・ステップ1|エネルギーの使用実態を見える化する
    2. ・ステップ2|運用改善でまず減らす(費用をかけずにできること)
    3. ・ステップ3|省エネ設備・高効率機への更新で減らす
    4. ・ステップ4|再エネの導入・調達を検討する
  4. ・投資の壁は補助金・税制で下げられる
    1. ・省エネ・脱炭素で使える主な支援制度
    2. ・投資回収期間で判断する
  5. ・まとめ|カーボンニュートラルの課題は「順番」を決めれば動き出せる

カーボンニュートラルとは?いま製造業に求められていること

カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量を差し引きでゼロにすることです。日本は2050年の実現を目標に掲げています。

ただ、現場に影響があるのは国の目標そのものではありません。取引先から排出量の報告を求められる、という形で降りてきます。すでに調査票を受け取った方もいるかもしれません。

脱炭素・カーボンニュートラル・GXの違いを整理する

似た言葉が並ぶので、最初に整理しておきます。

言葉

意味

脱炭素

温室効果ガス、とくにCO2排出を減らしていく取り組み全般

カーボンニュートラル

排出量と吸収量が差し引きゼロになった状態

GX(グリーントランスフォーメーション)

脱炭素と経済成長を両立させる社会・産業構造の変革

脱炭素が日々の取り組み、カーボンニュートラルが目指す状態、GXがそれを経済成長と両立させる構造の変革、と押さえておきましょう。

中小製造業には「取引先経由」で要求が降りてくる

大手企業を中心に、自社の直接排出だけでなく、原材料の調達や輸送、製品の使用・廃棄などに伴うその他の間接排出(Scope3)まで算定・開示する必要性が高まっています。

算定は、活動量に排出原単位を掛ける方法でも行えます。ただ、個々の取引先の実情や削減努力を算定に反映するために、取引先から一次データを集める動きも進んでいます。調査票という形で中小企業まで回ってくるのは、このためです(出典:環境省グリーン・バリューチェーンプラットフォーム「Scope3排出量とは」)。

2026年版中小企業白書によると、脱炭素化に向けた取組について協力要請を受けたと回答した企業は全体の15.8%(2025年)で、業種別では製造業が最も高くなっています(出典:中小企業庁「2026年版中小企業白書」)。
要請は一部の大企業だけの話ではなく、サプライチェーンを通じて中小製造業にも届き始めています。答えられない状態が続けば、今後、取引継続や新規取引の評価項目になる可能性もあります。

中小製造業がぶつかるカーボンニュートラルの5つの課題

ただ、実際に動き出そうとすると壁に当たります。私たち山善に設備更新のご相談をいただくときによく耳にするのも、電気料金そのものよりも、既存設備の消費電力を設備別に把握できていないことが投資判断の障害になっている、というケースです。

2026年版中小企業白書でも、脱炭素化・カーボンニュートラル・GXを進めるうえでの問題点として「コストに見合ったメリットがない」「具体的な効果や成果が見えない」「脱炭素化・GXを推進する人材が足りない」が上位に挙がり、取組段階が低い事業者ほど「どのように推進すればよいか分からない」の割合も高くなっています。

ここではこれらに、取引先から排出量を求められるという、中小製造業で特に起こりやすい事情を加えて、5つの壁として整理します。

中小製造業がぶつかるカーボンニュートラルの5つの課題

壁1.何から手をつければいいか分からない

最初の壁がこれです。目標だけが先にあり、削減の対象が特定できていない状態です。

自社の電力や燃料を、どの設備がどれだけ使っているのか。工場全体の請求書では分かっても、設備や工程の単位までは把握できていないケースがあります。使用量が分からなければ、減らす対象も決められません。

壁2.コストが読めず、投資に踏み切れない

電気料金の上昇や変動が経営の負担になる一方で、設備投資には資金が要ります。この板挟みが2つ目の壁です。

とくに厄介なのは削減効果が金額で見えないことです。「この設備を入れると年間いくら下がるのか」が示せなければ、決裁は通りません。効果が読めないから投資できず、投資できないから電気代が下がらない、という状態が続きます。

電気料金は燃料費調整額や再エネ賦課金の影響も受けるため、単価そのものが動きます。だからこそ、自社で動かせる「使用量」の側を握っておく必要があります。

壁3.専任者がいない・知識が追いつかない

担当は総務や製造部門の兼務というケースもあります。制度や用語は次々に増えていき、追いかける時間がありません。

社内で説明を求められると言葉の意味から調べ直すことになります。

ただ専任者を置けなくても、電力・燃料の使用量など自社で確認できるデータを集めるところまでは進められます。算定方法の確認や設備ごとの分析、更新する設備の選定といった専門知識が要る部分は、設備メーカーや商社、支援機関を活用するのが現実的です。

壁4.取引先から「CO2排出量を出してほしい」と言われても答えられない

調査票が来ても答えるためのデータが社内にありません。電力使用量は工場全体の請求書でしか分からず、製品単位や工程単位では出せない、という状態です。

取引先から回答期限を指定されることもあるため、5つの中でも優先度が高くなりやすい課題です。取引に影響しうる点でも後回しにしにくいところです。

求められるデータの粒度は取引先によって異なります。製品単位のカーボンフットプリントを求められることもあれば、工場全体の実績で足りることもあります。いずれにせよ出発点は、自社で把握できるデータを整理することです。ただし、製品単位の排出量を求められる場合は、電力・燃料だけでなく原材料などのデータも必要になります。算定の考え方は公的なガイドラインで整理されているので、ゼロから組み立てる必要はありません。

壁5.取り組んでも効果が測れず、続かない

削減量が見えないと社内の関心は続きません。これが5つ目の壁です。

生産量が増えれば電力使用量も増えるので、総量だけを見ていると努力が見えなくなります。製品1個あたり、あるいは生産金額あたりの電力使用量(原単位)のような指標を決めて、定点で見ていく必要があります。

カーボンニュートラル対応、まずはCO2削減から始める4ステップ

カーボンニュートラルには原材料や物流などサプライチェーン全体への対応も含まれます。ただ、中小製造業が最初からすべてに取り組むのは現実的ではありません。まずは自社で把握・改善しやすいエネルギー使用から始めます。

5つの壁を同時に崩そうとするとたいてい止まります。着手しやすいものから順に整理すると、進め方は次の4ステップになります。

自社のCO2削減に取り組む順番は4ステップ

ステップ

やること

費用感

この段階で得られること

  1. 見える化

使用量・生産量を確認

ほぼ費用なしから可能

削減対象が分かる

  1. 運用改善

待機電力・エア漏れ・条件の見直し

ほぼなし〜少額

投資の前に削減できる

  1. 設備更新

高効率設備へ更新

投資が必要

電気代とCO2を同時に削減できる

  1. 再エネ

太陽光の導入・電力調達の見直し

投資・契約が必要

電力由来のCO2排出を減らせる

ステップ1|エネルギーの使用実態を見える化する

最初にやるのは、削減ではなく把握です。
見るのは3つです。いつ(時間帯・曜日・季節)、どこで(設備・工程)、どれだけ(使用量と原単位)。

そのために、まず次のデータをそろえます。

  • 直近12か月程度の電気・燃料の使用量
  • 同じ期間の、月ごとの生産量
  • 確認できる場合は、30分ごとの電力使用量など時間帯別のデータ

最初から設備ごとに細かく計測する必要はありません。月ごとの使用量と生産量を並べるだけでも、生産量のわりに電力を使いすぎた月が見えてきます。そこから可能な範囲で主要な設備ごとに切り分けていきます。ここができると、後のすべての判断が数字ベースになります。

ステップ2|運用改善でまず減らす(費用をかけずにできること)

見える化ができたら、次は運用の見直しです。

待機電力のカット、エア漏れの対策、稼働時間や段取りの見直し、加工条件の最適化。投資判断の前に成果が出せる領域です。詳しくは以下の記事で解説しています。

工作機械の省エネ対策|今すぐ始める電気代削減と補助金活用の具体策

ステップ3|省エネ設備・高効率機への更新で減らす

運用改善で限界が来たら、設備の更新です。

旧型の設備は、高効率な機械への更新によって消費電力を抑えられる場合があり、電気代とCO2排出量の双方の削減につながります。老朽化した設備を使い続けるコストと更新の効果は、以下の記事で具体的に比較しています。

金属加工業の電気代高騰|古い設備を使い続けるコストと設備更新ROI

ステップ4|再エネの導入・調達を検討する

自家消費型の太陽光や、電力メニューの切り替えといった選択肢もあります。

基本的にはまず省エネで使用量を減らし、そのうえで再エネの導入や調達の見直しを組み合わせると考えやすくなります。再生可能エネルギーを買えば解決する、という話ではありません。

ただし取引先から再エネ比率を求められている場合など、要求の内容によっては省エネ施策と並行して検討することもあります。

なお、ここまででカーボンニュートラル対応が完了するわけではありません。取引先から求められる範囲によっては、原材料や物流などを含むサプライチェーンの排出量把握や、残る排出への対応も必要になります。

投資の壁は補助金・税制で下げられる

2つ目の壁だったコストの問題は、公的な支援制度である程度まで下げられます。

省エネ・脱炭素で使える主な支援制度

国の補助金には、

  • 省エネルギー投資を支援するもの
  • 省力化投資を支援するもの
  • 生産性向上のための設備投資を支援するもの

といった系統があります。設備の更新はこれらの対象になり得ます。

ただし、制度の名称も要件も年度ごとに変わります。公募が回数制で行われ、締切も限られています。制度名で探すよりも、中小企業庁の補助金公募ページなどで、いま募集している公募要領を確認するのが確実です。

選ぶときの観点は3つです。

  • 導入したい設備が対象に入っているか
  • 求められる削減率や生産性向上の要件を満たせるか
  • 申請から交付までのスケジュールが自社の投資計画に合うか

3つ目は見落とされがちで、交付決定の前に発注すると対象外になる制度もあります。

設備投資には、特別償却や税額控除といった税制優遇も用意されています。こちらも適用期限が定められているため、投資の時期によって使えるかどうかが変わります。

制度の選び方や採択率を上げる考え方は、以下の記事でそれぞれ解説しています。

【2026年4月】省エネ投資促進補助金|令和8年度の制度概要・変更点と申請要件を解説

【2025年10月】省エネ補助金「工場事業場型」と「設備単位型」|採択率74%のポイント

【2025年版】設備投資の税制優遇まとめ|即時償却・税額控除の選び方

投資回収期間で判断する

補助金が使えるかどうかにかかわらず、判断の軸は投資回収です。

電気代の削減額に補助金を織り込んで、何年で回収できるかを出す。この数字があれば、社内の決裁も取引先への説明も進めやすくなります。考え方は以下の記事で整理しています。

設備投資の回収期間とは?製造業の目安・計算方法と投資判断のポイント

設備投資のROIを15分で試算|稟議書にそのまま使える計算テンプレート

まとめ|カーボンニュートラルの課題は「順番」を決めれば動き出せる

中小製造業がぶつかる壁は、

  • 何から手をつけるか分からない
  • コストが読めない
  • 専任者がいない
  • 排出量を答えられない
  • 効果が測れず続かない

この5つです。どれも精神論では越えられません。

これらの壁の越え方は、

  • ステップ1「見える化」
  • ステップ2「運用改善」
  • ステップ3「設備更新」
  • ステップ4「再エネ検討」

この4つのステップで進めます。

全部を同時にやろうとせず着手しやすいところから順に手をつけるだけで、止まっていたものは動き始めます。

原材料や物流を含むサプライチェーン全体への対応が必要になるかどうかは、取引先から求められる範囲によります。ただ、CO2削減の出発点は変わりません。まずは、自社がいつ・どこでエネルギーを使っているかを把握するところからです。数字を持てば、取引先への回答も、設備投資の判断も変わってきます。

省エネ設備への更新や補助金の活用など「カーボンニュートラル対応」についてお悩みの方、私たち山善へお気軽にご相談ください。

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